それは戦いの中での美しさです。日本は敗戦、復興、高度成長の過程で、企業戦士として命がけで戦うことが大義にかなったものであり、美であったのかもしれません。それが多くの人に波及し、会社や職場に尽くさず辞めることは悪いことであり美しくないという意識が根づいていったと考えられます。

だんだんと終身雇用も少なくなり退職、転職が当たり前のようになってきていますが、辞めることに背徳感や罪悪感を抱いてしまう若者も少なくありません。親世代を含め、これまで続いてきた価値を反映しているのでしょう。

またノーと言えないやさしい真面目な若者は、その価値を振り切ることも難しいでしょうし、現代の労働社会を泳ぎ切る自信もまだないかもしれません。このような価値観が根底に生きていて、辞めることに何となく後ろめたさを感じるのではないかと思います。

身体症状というサイン

問題の身体症状です。身体症状を起こす精神障害はパニック障害などいくつかありますが(ご興味のある方は章末の〈ちょいたし④〉をご覧ください)、どれも当てはまりません。

メンタルクリニックを訪れる人は身体症状を訴えることも多く、標榜としては精神科とセットで心療内科があることが多いですから当然とも言えます。

心療内科は1960年以降普及し心身症、精神身体病の治療として注目されました。当初は精神的なストレスによって明らかに身体的病変を呈するものに対する治療という印象がありました。強いストレスによって「胃に穴があく」などです。

しかし最近は、主観性の強いうつ的な気分の訴えが多く、身体的にも機能的な訴えが多い印象です。内科を経由してくる人もいますが、身体的異常はないかあっても軽微なことが多いです。

若者たちもこれに含まれ、はじめはふわふわ病かな、なんて悪口を言っていましたが、身体症状とうつ的気分がセットになっており、大体よくなるには3カ月くらいかかり、何らかの事由でそれ以上かかる人もいます。

昔話題になった新型うつ病のようにストレス因が目の前から消えると元気になるゲンキンな人もいるでしょうが、現在私が経験するなかではあまりお目にかかりません。

【前回の記事を読む】ブラック企業じゃないのに辞められない…。病むまでそこにいる理由とは