第1章 それは適応障害なのか

メンタルクリニックを訪れる若者

若い人が就職し比較的早期に退職することは、今やそれほど珍しいことでもなくなりました。就職してみたものの自分が考えていたのと違う、自分の本当にやりたいことに気づいたなど前向きの理由で退職することは、会社には有難くなくとも、それはそれでと考えることができます。

以前、発達障害の傾向がある人の退職の様相についても触れましたが(拙著、『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』幻冬舎、2020)、前向きの理由でもなく、発達障害の傾向でもなく、退職に至る場合があります。何らかの理由で退職に至ってしまうわけですが、その前段階でメンタルクリニックを訪れる人もいます。

そのような人たちの多くは、メンタルクリニックでまず身体症状を訴えます。出勤前になると、お腹が痛い、下痢をする、吐き気がする、頭が痛い、めまいがする、手や足がふるえる。行きさえすればおさまる人もいますが、出勤できない人もいます。そのうち不眠や食欲不振、職場で頭が真っ白になる、パニックを起こした、起こしそうになった、夜一人でいると涙が出るというような訴えも聞かれます。

蛇足ですがメンタルクリニックは医療機関なので、何らかの精神症状、精神症状に起因する身体症状がなければどうにもなりません。初診の問い合わせで「話を聞いてほしい」「どうしたらよいでしょう」と言われても基本的には答えられません。

メンタルクリニックはやさしくしてくれるところだと思われている節がありますが(もちろん冷たくはしませんが)、医療を提供するところなので症状がない場合は医療対象ではなく、カウンセリングなどを利用してもらうことになります。

カウンセリングはカウンセリングルームなどに行ってもらうしかありませんが、基本的に有料で自費です。すがるように電話が来ると、それほど身近に相談できる人がいないのかと気の毒に思ってしまいます。