第1章 幼い日の思い出

3 小学校時代

郊外学園の思い出

そのころ私は結膜炎になって一人で別室に寝かされていた。いつも海水浴の時間になると、みんなガヤガヤと賑やかに海へ下りて行く。しばらくして静かになった学園の中で、私は右の目を赤く腫らして部屋からも出られず、たった一人でつまらない思いをしていた。

そんなある日、「具合はどうや」と言いながら学園の先生に案内されて、父が姿を見せた。全く思いがけなかっただけに、父の顔を見て泣きたいくらいに嬉しかった。ホームシックにかかっている子には悪いけれど、本当に嬉しかった。父は学園からの連絡で様子を見に来てくれたのだった。それからしばらくして結膜炎は治った。

その後いつだったか、「網引きがある」というので「見に行こう」と何人かの友だちと急いで浜に下りた。そして地元の人たちに混じって、エンヤコラと地引き網の網を引かせてもらった。浜に引き寄せられた地引き網の中には、沢山の魚がピチピチと跳ねまわっている。「わぁー」初めての体験で私はすっかり感激した。

すぐ側にいた漁師のおじさんが、網からこぼれて跳ねている小イワシをひょいと拾って、頭を取り海の水で洗ってポイと口の中へ放りこんだのには驚いた。

何日かかかって、学校の友だちへのお土産に海辺でヒトデや、きれいな石や貝がらを拾い集めた。

八月の末、あすは大阪へ帰るという日になって台風が来た。海がものすごくシケて、おそろしく高い屏風のような波が、海から浜に向かって襲いかかってくるのが、部屋の窓から見ていて本当に怖かった。おかげで帰阪の日は延期された。明くる日浜へ出ると、昨日まであんなにきれいだった砂浜が一変して、沢山の流木やゴミで埋まっているのを見てびっくりした。

様々な体験をした淡路島でのひと夏は、小学校時代の忘れられない思い出になった。