飛燕日記

だが、そこにあるものと輪のサイズがまったくあわない。いつもどうやってつけていたのだろう。ゴムというからには伸びるのだろうが、それにしても固かった。

手を滑らせながら苦労していると、枕のほうから「つけられる?」と声がした。心配そうに、窺うように。こうなると意地でも自分でつけたい。頭の部分に輪を押しつけて、なんとか巻き下ろそうとした。

「失敗したら危ないし、やろっか」

途方に暮れて拘束をほどいた。彼の手にかかると、扱いようのなかったものはきれいに収まって、まるで二対一の喧嘩で負けたような気持ちになった。次からは自分でできると自信を取り戻したところで、身体をゆっくり押し倒された。彼のにっこり笑顔と目があう。急いで愛想笑いを返したが、それで済むわけがなかった。

ベールの中にあったのは獰猛な獣の眼だった。うまく彼を先導しているつもりでいたが、手のひらで転がされていただけだったのだ。私は手錠も目隠しもなく捕らえられていた。

身体のぶつかりあう音が部屋に響く。濡れた音が頭を占拠し、鼓膜まで犯されているようだ。足元によせては返していた快楽の波は、今や見逃せないほど大きくなっている。抑えつけていたぶん大きい。遠くに大波の気配がする。くる、と思った。

だがその時、動きが止まった。とめどなく送りこまれていた快楽がやみ、熱の塊が引き抜かれる。

「今日はここまで」

悪魔のような笑みを浮かべる彼の前で、私は無力だった。

四季の数だけ恋人はいたが、今この熱を鎮めてくれるのはタツマさんしかいない。

急に突き放されて不安に駆られ、気がつけば懇願するように謝っていた。拘束したのはほんの出来心だったし、彼を怒らせるつもりはなかった。きっと彼も射精したいはずだ。よかれと思って絡めた足で腰を引きよせると、油断していた身体がこちらに進んだ。望んだものが望んだ場所におさまる感覚に、目を閉じる。

頭上から舌打ちが降ってきて、いっそう激しく攻められた。少し時間をおいたせいで感度が上がっている。引きかけていた波が再び押しよせ、すぐにそばまでやってきた。

タツマさんは短く息を詰めた。動きのピッチが上がり、彼も限界が近いようだ。その目に胸を射抜かれた。身体の熱は最高潮に達しようとしているのに、ものを見るように冷たい目をしているのだ。感情のない眼差しに見下ろされ、なにかが心地よく壊れていく。人の手に暴かれ、崩壊し、このまま相手の中に取りこまれていいとすら感じる、この瞬間が好きだった。

多幸感に飲まれながら、理性を手放した。