曽我兄弟、継父の元で育つ 兄九歳・弟七歳

この当時、子供の遊びといえばコマ回し、竹馬、羽子板。闘犬や闘鶏(とうけい)を見るなどが普通であったが

――曽我の二人の兄弟は、他の子供たちとはまるっきり遊び方が違っていた。この日もこの日とて、「箱王、怠けず稽古をせねば、過たず射ることはできぬぞ。ほら、ご覧」

一萬が弟を励ましつつ、薄(すすき)で作った矢、竹製の小弓で、障子を射てみせる。矢は障子にぶすりと当たった。

「あのように、思うさまに仇の首を射てみせよう。我らがいつか、十三、十五になったならば」

遊ぶにしても、このようにあだおろそかに遊ばない。年に似合わぬ熱心さで弓の稽古をするのだった。

「兄様よ、大事な仇を、そんな遠くに倒すものではありませんよ」

箱王が生意気にやり返した。彼は兄が射通した障子を破り取って、持っていた小刀で左右に斬りつけた。

「このようにやらねば、確実に倒したか、分かったものではありませんぞ」一萬は弟の頭を撫ぜて、ニッコリと笑う。

「勇ましいぞ、箱王。それならば討ち損ずることはあるまい」

……ところが、ここに思わぬ目と耳があった。誰もいないと思って安心していた兄弟だったが、物陰から乳母が一部始終見ていたのである。

「まだ幼いというのに、末恐ろしいことだ……」

慌てた乳母は、すぐさま母親の満江に知らせる。母は息子たちの様子を聞いて、サッと顔色を変えた。

「ああ、何ということだろう。恐ろしいこと……。二人して仇を狙っているとは」

オロオロと取り乱しつつ、すぐに乳母に向かって

「すぐに二人を連れてきておくれ。それから、このことを他に漏らすのではありませんよ!」

と、激しい勢いで命じたのだった。

……さて、過ぐる四年前の秋、夫を殺害されたあの日の夕べに、「きっと仇を取って下され」と涙ながらに訴えた満江が、何ゆえここでは、息子たちが仇討ちを志していることを「恐ろしい」などと怯えているのか?