ぎんちゃんは、面白くなり付け加えて言いました。

「ほかの種類の生き物たちも、その木の辺りにいるかもしれないから、見ておいておくれ」

カラスさんは、不思議に思い聞きました。

「まだ何かいるのかい」

ぎんちゃんが説明を続けます。

「秋が近付き、木の実が熟すころになると、色々な生き物たちが集まるんだよ。仲間として話ができそうか見極めておくれよ」

カラスさんは面倒くさそうに言います。

「なんだか厄介な仕事を請け負ってしまったな。しょうがない、やるよ」

こんな会話を、すっかり秋らしくなってきた九月中頃の夕暮れ時に行いました。

 

その二 柴犬さんの生きるすべ

カラスさんが森を調査すると言った日の昼下がりに、森の中では事件が起きていました。

ぎんちゃんが後になって柴犬さんから聞いた話だけど、先に少し話させてください。

飼い主に捨てられてしまった柴犬さんの話です。

都会の小さな一軒家に住んでいたので、ほとんど家の中の生活で、朝と夕方に短い時間だけ散歩に出ていたようです。

以下は、柴犬さんが落ち着いた次の日に聞いた話です。

 

数日前の朝、主人が車に乗って出かける準備を始めた。おいらも連れていくとのこと。奥さんも娘も一緒に行く様子もなく、何か顔色も良くなく変だなと思った。

おいらの顔を見入って、「元気でね」と言いやがる。「何か怪しいな」と思ったが、よく分からないまま、主人は無言でおいらを車に乗せて走り出す。奥さんと娘は見送っていたけど、泣いているみたいだった。

車はしばらく走って山奥まで来た時に、主人は人気のない道路で車を停車させた。

そして「散歩するよ」と言い出す。

久しぶりに森の中に入れると思い、おいらは喜んだ。だけど主人の様子がおかしい。

おいらの首輪を外してしまった。

「なんだなんだ!おいらを殺してこの森に捨てるつもりか。だから奥さんと娘が泣いていたのか」と悟った。すかさず「これはまずい。車から降りたら、すぐに森の中に逃げよう」と決めた。

主人がドアを開けて、おいらを車外に出そうとするやいなや、一目散に後ろを見ずに、森の中へおいらは逃げた。

【前回の記事を読む】ゆったりとして見える里山の風景も、昆虫の眼で見れば戦いの場所だ。