第1章 直面する課題の概略~人生100年時代前夜

1.人類が初めて出会った人生100年時代

我々の直接的な祖先であるホモサピエンス=人間はこの地球上に20万年前に出現した。その進化の過程で人間は1万2千年前に農業定住生活を、また18世紀には科学の著しい発展により産業革命を成し遂げ現代にいたっている。

しかし人間は数々の発明、発見を成し遂げ、進歩をしてきたが、現代までほとんど人生50年以下の人生であった。我々は種族保存という大きな目的に沿って一つの意味のある、また意味の明快な人生を繰り返してきたのである。人生100年時代の生き方は、今まで我々は考える必要性および必然性はなかったのである。

古今東西の哲学者、宗教家、歴史学者などが、成し遂げてきたことは全て「人生50年以下時代をいかに生きるか」の考察および人間の科学的発展分析である。全て人間の人生は50年間の一つの人生という発想である。人生100年時代は50年の2倍なので人生は二つかも知れない。

なおかつ第2の人生など今まで誰も考えていない、考える必要もない期間であったので誰にも分からないし、ロールモデルもなかなかいない。どう生きていくか分からないので迷うのである。

 

長寿命化の進行度があまりにも急激なため、現状では社会体制も確固たる制度が作られてはいない。人間の人生キャリアは元々生まれてから成長し仕事をし結婚をし子孫を育て上げる、ここまでの期間、現状で言えば定年退職60歳までの期間なのだ。それ以降の期間はなかったので社会体制もおのずからそれに対応するようには作られてはいなかった。

また60年という期間においては、人々は経済成長に寄与し種族保存に貢献するというキャリアの目的もはっきりしている。当然、国家体制、国家政策もその60年期間に社会制度の投資をするのだ。また60歳以降の個々人も、どのようにキャリアを構築していったらいいのかが不明なのだ。

哲学・古典・文学・宗教等を眺めると、あまたの人間の人生に言及する著作はある。しかし、それら賢人の言及は全て人生50年以下のものだ。無理もない。寿命が50年以下なので当然である。

ということは文献を調べても人生100年時代の生き方の概念は存在しないのだ。そうしたら個々人に当たってみようと試みても60歳以降は人々の個人差が大きい、またマス、集団での多くのロールモデルが見えない。ということは、前例がない、メンターとの巡り合いが少ないということになる。