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さて、肝腎な白川郷の経済基盤についてだが、これもなかなか解明出来なかった。それでもう一度、篠原は白川郷関係の本や村史を読むことにした。

取材前に読んではいたが、現物を見てから読み直すと、また新しく気が付くこともあるからだ。まずは江戸時代に何か大きな特産品はなかったか調べた。村史には集落ごとの産物が書き出してあった。

明治十二年の資料で、一番大きな荻町区を特に調べた。中で特産品と言えそうなのは繭、麻、楮(こうぞ)、硝石などであろうか。最後の硝石というのは火薬の元の原石だが、日本では取れないはずだった。しかも硝石については、すでに役場の人に教えてもらっていた。

「日本では硝石は産出しないはずなのに、どうして書いてあるのですか。この辺りの山からわずかに採れたのですか」

「いや、硝石は採れませんよ。採掘したのではなく、床下の土に尿を混ぜて作った、ということになっています」

「土に尿を混ぜる? 土に尿を混ぜた物って、肥やしと同じでしょ? それがどうして火薬の原料の硝石になるのですか?」

食い下がったが、役場の人は露骨にイヤな顔をして、プイっといなくなってしまった。その話はしたくない、という様子であった。

篠原としても、その話はバカバカしい、と思った。

土から火薬が作れるはずがないじゃないか。中世の錬金術じゃあるまいし、土にオシッコを混ぜて火薬に変わるはずがない。この話はたんなる村の言い伝えだろう、と思った。

そういう言い伝えも、一応村史に書いてあるだけで、役場の人も実証していないので話したくないのだろう、と思った。

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