いじめの流れで加害者が破り捨てたのかもしれない。しかし、それにしては破れ方が丁寧だ。カッターで切ったようである。仮にそうだとして……。誰が切ったのか? いつ切ったのか? 何が目的で? 何が書かれていたのか?……。

ひとつだけ、答えが出た。見られたくないものが書かれていたのだ。では見られたくないものとは何か? わたしは腕を組み、考えを巡らせる。

振り返ると、あの日、姉の遺品整理をしていたときの出来事に違和感を覚えた。どうして母の化粧台の上にこの大学ノートがあったのか。姉の部屋ではなく両親の寝室に。これまで気にも留めていなかったのに……。

父亮平の寝室に目を向けた。母が亡くなった今は父の部屋になっている。この時間、父は仕事でいない。わたしは足を忍ばせて寝室のほうへと歩み寄る。父に見られているわけでもないのに慎重になる。

「勝手に俺の部屋に入るなよ」と釘を刺されているからだ。

部屋の前にきた。左右を何度も確認する。そのときのわたしは、父の言いつけを破ってゲンコツをもらうよりも怖いもの見たさのほうが勝っていた。ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。だけど、開かない。鍵がかかっているようである。それがかえってわたしの疑念を増幅させた。

父は何かを知っている。何かを隠している?

すると、玄関の扉が、バタンッと閉まる音がした。

「帰ったぞー」

父の声。しかし、今日はいつになく元気がない。わたしは居間に戻り、壁かけ時計を確認する。午前二時十分。仕事から帰ってくるのはいつも朝方なのに……なぜ? 

父が姿を見せた。腰に手をあて、前かがみである。

「どうしたの?」

「見りゃわかるだろ」

わからないから聞いているのだが。

「ぎっくり腰だよ! 仕事になんねーから、帰らせてもらった」

言いつつ父は、浴室に向かった。ぎこちない動きでのろのろと。それでも着衣を脱ぎ散ゆがらすことだけは忘れない。「いててて」と顔を歪めながら、意地でも廊下に脱ぎ捨てようとする。

その姿は、習慣というより根性である。そんなに重症ではないのだろう。ぎっくり腰になると、歩けないほどの激痛が走ると聞く。風呂もNGだと思うのだが、父には関係ないようだ。

「風呂沸いてねーぞ!」キレる声。

「ごめん」

わたしは素っ裸の父を通り越し、急いで浴室の蛇口をひねった。だが「もういい。今日はシャワーにする」と父はぶっきらぼうに言い、浴室から締め出された。ノートのことは頃合いを見てそれとなく聞こう。わたしはそう思うしかなかった。

【前回の記事を読む】先輩そっくりに変装し、姿を見せる…。復讐計画は順調に進んでいる。