第三のオンナ、

千春

電車が駅のホームに停まった。わたしは降りると、家路を急ぐ人たちの群れから離れベンチに腰を下ろす。

発車のベルが鳴った。電車がゆっくりと走り出す。わたしはあたりをゆっくりと見回した。ホームは人がまばらになった。

さてと。

わたしは立ち上がり、トイレに向かった。中には誰もいないのが確認できると、鏡の前に立ちバッグを開けた。毛先が内巻きにカールした金髪のボブウィッグを取り出し、装着する。鏡を見ながら微調整し、スタイリングの位置を決めた。

これでよし。

改札口を出て、駅前のファミレスに向かう。店の前にきた。スマホで時刻を確認する。そろそろバイトの時間だ。わたしは物陰に身を潜め、獲物がくるのをじっと待つ。

と、獲物――亜矢が向こうに姿を見せた。

わたしは通りに出ると、遠くを見る目でファミレスの前をゆっくりと歩き出す。この日のためにわざわざ購入したベージュのスプリングコート姿で。

亜矢とすれ違った。

その瞬間「まゆ実?」と呼ぶ声が聞こえた。わたしは無視し、歩を早める。

「まゆ実!」

亜矢の声はトーンが上がったが、構わずに歩き続けた。

「千春ちゃん!」

呼び名が変わった。

それでも聞こえないふりをして前へ前へと進む。角を折れたところで、ビルとビルの間に隠れた。追いかけてくる気配はない。

通りに戻ると建物のコーナーから半分だけ顔を出し、亜矢の姿を追った。遠巻きでも首を傾けて店の中に入っていくのがわかった。

しめしめとニンマリすると、わたしはスマホのスケジュールアプリを表示させた。今日の予定表の中に、エリ、ミナ、イガラシ君、貴輝、そして最後に、まゆ実の名前がある。わたしは不敵に笑いつつ、足早にその場から立ち去った。

夜遅くに帰宅すると、部屋着に着替えないままベッドに倒れこむように横になった。亜矢、エリ、ミナ、イガラシ君。この四人が、それぞれ別行動で、狭いエリア内にいることをSNSや彼らの友人の聞き込みで把握していたとはいえ、さすがに短時間ですべての予定をこなすのはしんどいものがあった。だけど、この日を逃すと次はいつになるかわからなかった。