第一話  ジュピターと不思議の剣

(その一)

歩いて行くと、やがて鬱蒼とした森の入り口にやって来た。

森の中は朝靄がかかり視界を遮ってよく見えない。少し湿ったような冷気が支配し静まり返っている。時々小鳥の囀りや獣の遠吠えが聞こえた。その中を彼らはゆっくりと進んだ。

彼の背にある剣はずっしりと重い。

青銅色の鞘に長い金色の柄、そして丸い鍔がついた剣だ。母が盗賊の襲撃で連れ去られる数日前、彼女は偶然この剣を長男であるユージンに渡した。

その時、「いつかはお前もこの剣が使えるようになるはずだ。この剣は父上の血をひく者だけが使う事のできる不思議な剣なのよ。でもお前が勇敢な男となり正義の心を持たなければ、この剣を使うことができない」と、母が語っていた。

そして「お前も勇敢で正義の心をもつ立派な男になりなさい。そうすれば、この剣は本当にお前のものになる。その時が来るまで、大切に持っていなさい」こう言って、母は剣を与えた。

歩きながら、ユージンはその時言った母の言葉を思い出していた。

母から剣をもらったユージンは興味本位で鞘から剣を抜こうとしたが、母が言ったようにびくともしなかった。母はユージンを優しい眼差しで見つめこんなことを言った。

「この剣をおまえが使えるようになった時、はるか西方の国で不思議な出会いがあるだろう。そうお父様が言っていた」

「ふーん。そうなんだ。どんなことが起こるのだろう。本当に僕がこの剣を使えるようになるのだろうか」剣をまじまじと眺めながらユージンは呟いた。

その剣が今は母の形見となり父の形見となってしまった。

「父が言ったことは一体どんな意味があるのだろう」そう思いながら、昨日起こったことを思い出していた。

恐ろしかったに違いない。村が盗賊の集団に襲われ、多くの村人が殺され、略奪された。一瞬のうちに平和な村が破壊され、多くの子供や女が連れて行かれた。その時、ジュピターとユージンは小舟に乗って近くの湖で漁をしていた。家に残された弟と妹は、母に言われ屋根裏で息を殺し、潜む以外なかった。子犬のタイガーとフレイジャーを抱かかえたまま震えていた。幼い彼らは盗賊が去るのをじっと恐怖に耐えながら待った。

しばらくして湖上にいたユージンとジュピターが村の異変に気づき、湖から急いで戻ってきた時、村のあちこちの家が燃やされて燻っていた。道はおどろくほど静まりかえって人影がない。