第一話  ジュピターと不思議の剣

(その二)

「まさか」と目を疑ったが、トムの両親が殺されていた。ユージンは唖然(あぜん)として言葉を失った。その場に立ち尽くしたまま友人と冷たくなった彼の両親を見つめる以外になかった。

彼は泣き伏せる友に近づき、彼の背中に手をあてて沈黙した。「トム」とだけ言うのが精いっぱいだった。

ジュピターは殺されたトムの両親のそばで悲しそうな鳴き声をあげた。彼らはいつも優しく、家族のように子犬の頃からジュピターを迎えてくれた。ジュピターの鳴き声が山間の村に悲しそうに響きわたった。

ユージンはトムに自分の家で今夜は休むようにすすめたが、トムは今夜は両親と一緒にいてやりたいと言って動こうとしなかった。彼はその夜、そのまま自分の実家に留まった。

「お前の母上や弟妹は大丈夫か」頬の涙を拭いながらトムが顔を少し上げながらユージンに尋ねた。

「母上が連れ去られた」

歯を食いしばり、不安そうな表情でユージンが応えた。

「弟と妹は無事だ。タイガーとフレイジャーも助かった」

「そうか、よかった」と言ってトムはうなずいた。彼は、すぐにまた両親を見て泣き崩れた。

ユージンは、ハッとして他の仲間のことが気になった。

「トム、ライアンとタイラーのところに行ってくる」

悲しみで肩を落とすトムの背中に向かってユージンはそう言うと、すぐにトムの家を飛び出して丘を走り下った。ジュピターも一緒に彼に続き飛び出した。

すぐにジュピターはもうユージンの少し前を走リ出していた。どこに行くかをジュピターはすでに心得ていた。

「ジュピター先に行って見てきて!」

ユージンがそう言ってジュピターの後ろで叫んだ。ジュピターはぐんぐん加速し、飛ぶように先を走っていった。ユージンは先を駈けるジュピターの後を追うように懸命に走った。

ライアンとタイラーはユージンの遊び仲間達だ。兄弟で老いた祖母と三人暮らしをしていた。父親は二人が幼い時に重い病を患って他界した。そして、父親の看病で疲れ切った母親も、父親を追うようにして数ヵ月後息を引き取った。