あなたがいたから

再発

彼は、再発かもしれないと言われた後でも、意外と元気で、病気になる前から行っていた仕事にも会社の理解もあり、数時間だけ週に二日位は何とか行ける程であった。

しかし何回か行ってやはり「もう仕事は無理だ」と言い出した。「どうして?」と聞いてもはっきり言わない。体力的に無理なのだろうか。「分かった、貴方がそう感じるのであれば、もう仕事は無理しなくて良いのではないの」そう答えた。

後で分かった事は、前に当たり前にできていた事ができない。完璧主義の彼にとって、それが一番辛かったのだ。やはり脳の手術をしているから仕方ないのだろうか。一つ一つ今まで難なくこなしていた細かい事ができない。又人に教えていた事が、今度は教えられる状態になり、それが耐えられなかったのだと思う。

仕事も失い、やる事も無くなった彼は、毎日家の周りをぐるぐると散歩していた。「今の自分にできる事は散歩位しかないから」と言っていた。しかし歩く速度は、前に比べると大分遅くなった。その頃はただ彼のやる事を、見守る事しかできなかった。何も治療方法が見つからないまま、時間だけが過ぎていく毎日であった。

十月の定期検査で、やはり再発である事がはっきり分かった。何と九月の段階で一センチ位に広がっていた再発部分が、五センチ位に広がっていたのだ。とにかく進行が速い。年齢のせいもあるし、腫瘍の種類もあるのだろうか。

まず「どうしよう」と思った。そこで又「サイバーナイフ治療をやってみたいのです」と担当医の先生に再び告げた。先生の反応は「本人はどうなのですか?」という事を聞かれた。この治療を嫌がっていた彼に、「もう治療法が無いのだから、サイバーナイフ治療にかけてみようよ」という事を、話して了解を得ていたのだ。

彼は「サイバーナイフ治療をやってみます」と伝えた。今の彼に合う治療かどうか、素人の私にはまったく分からなかった。担当医の先生もこの時点では、本人に合うかどうかは、おそらく分からなかったと思う。でもこの進行の速い腫瘍を何とか抑えなければと、私は焦っていた。あと一か月放置していたらどの位大きくなってしまうかも分からないのだ。