あなたがいたから

さとさん

貴方は、「守護霊」というものを信じますか? 私には何となくですが、「守護霊」らしきものが見える時があるのです。霊といっても、決して怖いものではありません。いつも誰かに見守られている様な感じ。私が困った時や悩んでいる時など、遠くからじっと見つめてくれている。その様な気配を確かに感じるのです。

いつだったか街を歩いていた時でした。占いの方に「ちょっとこちらに来てくれませんか」と、呼び止められた事がありました。「いったい何を言われるのだろうか」と不安に思いながら近づいて聞いてみると、「貴方にはたくさんの守護霊がついています。お年をめした女性の後ろに、猫らしき動物の守護霊が何匹もついていますよ」と言われたのです。お年をめした女性と聞いて、すぐに思い出したのは、〈さとさん〉の優しい笑顔でした。

〈さとさん〉というのは私の祖母で、明治生まれのとてもおっとりした優しい人でした。〈さとさん〉が、私の傍にいつもついてくれていると感じる様になったのは、いつからでしょうか。

共働きだった両親に代わって、家事すべてをやってくれていたのが、〈さとさん〉でした。私が学校から「ただいまー」と言って帰ってくると、いつも「お帰りー」と、大きな声で返事をしてくれる人でした。そのお陰で子供の頃の私は、寂しい放課後とは無縁でした。いつも〈さとさん〉の優しさに包まれて生活していた事、今になって改めて感謝の気持ちでいっぱいになる事があります。

夕方近所の友達と遊んでいて、お腹が空くと、決まって釜で炊いた炊き立てご飯で、祖母特製のおにぎりを作ってくれました。今でも釜で炊いたあのおにぎりの味が、懐かしく食べたいなと思います。特に炊き立てご飯の焦げたところが大好きでした。何ともいえないあの味、程良い塩加減とフワッとした優しさをまとった味、言葉で言い表せない位美味しかった。それは今色々な美味しい物を食べても、比較にならない位でした。

〈さとさん〉は、とにかくおしゃれで、当時は今の様に髪を染めるクリームや、液体もあまりなかったと思うのですが、いつも髪をきちんと染めて、小奇麗にしていました。

「おばあちゃん、どうして髪をいつも染めるの?」と聞いた事がありました。すると「こうやって綺麗にしていた方が若々しくて良いでしょう」と言われた事があります。「なるほど、いつもきちんと綺麗にしていた方が良いな」と子供ながらに思ったものでした。

〈さとさん〉は、人を差別する様な人ではなかったのに、年をとってからは認知症の症状が表われてきたのか、ご近所で何か言われると、方言で「世が世ならひと様に、その様な事を言われる事はあるまいに」と、よく言っていた事を思い出しました。

〈さとさん〉の実家は、昔お金持ちで、お手伝いをしてくれる人もいたとか、「なるほどな」と思いました。あのおっとりとした振る舞いは、育ちからきているのかと。