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次の日も、ぼくは宅配のバイトに精を出す。寒い朝、空っ風が落ち葉やチラシや鼻をかんだティッシュを転がしていく景色の中を、黒い軽ワンボックスを飛ばし、まずは荷物を取りに営業所に向かうことから一日は始まる。

 宅配便のバイトは、車が一台あればこと足りる。配達車をリースしてもらうことも可能だが、ぼくのように酒屋用の軽ワンボックスを持っていれば、それをそのまま使用してしまえばいい。さすがに配達中は、『やんばるあけぼの商店』のロゴは、白いマグネットシートを貼って隠しているけれど。

いくらマイカー配達が可能といっても、積載量が小さい車だと荷物がちょっと多ければ積み切れなくなるし、かといってデカくてたくさん積めればいいかといえば、ガソリン代は自分持ちだから、燃費が悪いやつでは経費負担が大きくなる。

バイトの中にはビッグサイズミニバンで配達している主婦二人組がいて、大丈夫かよと思う。始めたばかりで自信がないとはいえ、ミニバンがいっぱいになるほどの荷物もないくせに、収入を二人で割っていたのでは、ろくな儲けも出ない。

何しろ完全歩合、荷物一つ配って百四十円にしかならないのだ。あるていどの数を効率よく配らないことには、それなりに儲けることはできない。

そういった点では、酒屋のぼくにはいいバイトであるに違いない。酒の配達用の軽ワンボックスなら、荷物をいっぱい積めるし、燃費もいい。この車に満載するほどの荷物はまだ経験したことはないが、平均サイズの荷物なら百個くらいは余裕で積めるはずだ。

もし毎日百個配るとしたら、一日一万四千円、一カ月休まずに働けば四十二万円となり、ガソリン代の何万かを引いたとしても、三十五万円を超える収入となる。バイトというよりいっぱしの給料だ。やる気になれば一日百個配ることは可能だが、それでは本業の酒屋の方が疎かになるので、今ぐらい、一日五、六十個ほどの荷物でちょうどいい。

営業所の荷物の集積場はすでに活気を呈し、運送用のトラックやバイトの車が並び、膨大な宅配物の山の間を、ドライバーやバイトの人たちがうごめいている。みんな白い息を吐き出しながらの作業だ。それはいかにも、やっている、という感がする。ぼくも白い息を吐いてその戦列に加わる。

縦横一メートル二十センチ、高さ二メートルはあろうかというカートが、ぼくには一個与えられていて、この中に積まれている荷物が、ぼくの今日の配達分ということになっている。

【前回の記事を読む】「わたしの方が、酔ってるもん」という彼女。好きにしていいという合図だ、と思った