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「ウソに決まってるよねえ?」

ぼくに同意を求めるように、彼女が言い募ってくる。

「おばあちゃんになんて、憧れるわけないよねえ? わたしはまだ若いし、人生楽しくやってける自信あるもん。仮に結婚も子育てもしなくたって、さあ」

そしてこれさえあればいいと言うように、缶チューハイを突き出して、

「はーい、飲み直し、飲み直し、カンパーイ」

ぼくは杯を合わせた。その時ノックの音がして、「大地さーん」という呼び掛けが聞こえてきた。看護師だ。ベッドをぐいぐい指差す彼女の指令に促され、ぼくはベッドに這い上がり、布団を頭からすっぽり被る。

看護師が施錠された戸を開けようとして、ガチャっと撥ね返される音が鳴り、

「大地さーん、そろそろ消灯だから、テレビの音小さくしてくださいねえ」

「はーい、もう寝まーす。すいませーん、着替えしてたもんで、鍵掛けちゃいましたあ」

無音になる。看護師は戻っていったのだろうか? それにしても、かすかに女の香りのこもる布団が、心地いい。パチン、という音が聞こえた。

そうっと布団を持ち上げてみると、布団の中のように、部屋が暗くなっていた。彼女が照明を消してしまったらしい。いくら消灯時間といったって、これじゃあ宴会の続きができないじゃないか。

コツコツという片足をひく足音とともに、うっすら彼女の影が近付いてきた。すると何を思ったのか、影が布団に潜り込んできたのだ。触れてはいないが、ぬくもりと濃い女の香りが、ぼくに押し寄せる。無言でドキドキしていたら、

「もう消灯だから、寝よう」

と影が呟いた。

「じゃあ、もう帰るよ」

「ヤバイよ、見つかるよ、看護師に。お見舞い時間過ぎてること、怒られるよ」

怒られたところでたかが知れていることは、分かり切っている。帰るな、ということなのか。この暗がりの中で。

「ほんとはね、あんま一人で寝たくないんだ、今夜は」

若菜という女の人のせいだろう。さっき、怒った顔が思い浮かんだと言っていた。

「恐いの?」

「あなたみたいにはならないって、言い返す自信が、ないから」