【前回の記事を読む】GEの原子炉設計ミスによる訴訟。クラスアクションで被害者の損害賠償を実現するチャンス

第1章 小さな政府と[民活]――民事訴訟を促して社会問題を解決

現実に起こされたGEへのクラスアクション

訴状の提出に対し2019年4月、ボストンの連邦地方裁判所は「この訴訟において確かにGEに対する裁判管轄は認められるが、ボストンは法廷地としては適当ではない」として、裁判所に与えられた裁量で事件を取り扱わないことにしたのです。フォーラム・ノンコンビニエンス(Forum Non-Convenience、不便宜法廷地)による却下でした。

近年米国では、各州がロングアーム法(Long Arm Statute)を制定、管轄権を大幅に拡張する傾向がありました。被告が当該州に存在していない場合であっても、その州と事件との間に最低限の関係(ミニマムコンタクト)があれば、州の管轄権を認めるというものです。

その結果、原告が自己に有利な場所で裁判を進めるため、事件とあまり関わりのない州で訴訟を提起するケースが多発し、これに対し歯止めをかける必要性が生じたわけです。それがこのフォーラムノンコンビニエンス(Forum Non-Convenience)です。訴訟を提起された裁判所が、自らの持つ裁判管轄権を行使せず、当事者の便宜や正義の実現のためによりふさわしいほかの裁判所に事件の処理を譲るというものです。

しかし、このGEへの訴えは、マサチューセッツ州法人であるGEの本拠地であるボストンの連邦地方裁判所で起こされたもので、本来の裁判地に提起されたものです。原告がロングアーム法に基づき管轄権の乱用をした結果ではありません。

にも拘らず米国の裁判所は、米国企業にとって都合の悪い訴えを門前払いしたのです。極めてご都合主義の決定としか言いようがないものです。しかし、フォーラムノンコンビニエンスは訴訟遂行上の便宜を考えた上での裁判所の裁量に基づく判断によるもので、いったん決定がなされると覆すことは困難です。

ボストンが法廷地としてふさわしくないのならば、どこへ行けばいいのでしょう。日本へ帰って訴訟を起こせというのでしょうか。そもそも日本の制度でGEを追求することが難しいため、ボストンまでやってきたのです。それができないとなれば八方塞がりです。原告団はどうすることもできず、訴訟を諦めるしかありませんでした。成り行きを見守っていた筆者としても、怒りを抑えることができませんでした。