第3章 AI INFLUENCE

第5項 決定

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そんなバーでの過ごし方を想像してみる。

このソムリエに隙はない。接客もイケている。褒めれば、「イエイエ、ゴマンゾクイタダケタノナラナニヨリデス。」と謙遜も忘れない。ソムリエは頷いたり微笑んだりはするが、どんな情けない愚ぐ痴ち をクドクドとこぼしても嫌な顔一つしない。

色彩を読み取るセンサーを内蔵すれば、顔色の変化を判断して「スコシノミスギデスヨ。オミズヲハサミマショウ。」と気遣うし、血糖値等も事前に入れておけば、健康管理もチョイスのファクターに入れてお酒を出すペースや身体に比較的優しい成分の銘柄を調整してくれる。

あくまでデータに基づく処理だから親切なようで介入感もない。その日の予算を予め設定することや帰宅予定のアラーム機能も家族向けの重要なサービスだ。当初予算を定時までに使いきれるように正確に配分し、予算が尽きるか時が来れば「タイセツナヒトガ、オマチデスヨ。」と釘を刺す。

こんなソムリエが相手を務めるなら、奥様も安心のお墨付きのバーになるに違いない。ただし、「それで酔えるんだろうか。」という問題は残る。

“酒と人恋しさ”も切り離される時代は到来するだろうか。幸い私は、バーでは殆どバーボン・ウイスキーしか飲まず、銘柄もジャック・ダニエルかIW-HARPERと決まっているので、あるかもしれない。

疑いを忘れることを救済と言うならば、宗教足りうるかもしれない。アルゴリズムは無味無臭で、思想的主張は一点。シンプルに、「効率的であれ」ということ。

“隣人を大切に”とか、“諸事、物事に感謝する”とか、“来世を信じる”とか、“自己犠牲”とか、人々に無理を強いない。厳しい戒律もない。無理なく皆が同じ向きに流れていくから摩擦も生じない。ゆえに一見、排他性もない。

この消極的信仰の救済者は、人を選ばず誰に対しても同様に接し、常に、一義的に正しい答を導き出す。そして、実体としては我々の前に姿を見せることはない。しかし、いつも我々を見守っている。控えめな夜空に瞬く星よりも実利的に、確かに。

人工知能は、神のような顔をしている。