ザ・バサラ

館長の熱弁が続く。

「当然ながらおいしい苔が発生する環境が必要となる。その環境とは水質、水量、水の速さ、そして石の素材が関係する。丸く堅い石で、あまり大きくなく、さりとて砂利ではいけない。つまり常に新鮮な苔が発生する形態、環境でないとおいしい苔は発生しない。岩石や、ゆるやかな流れではおいしい苔は育たない。水質も重要な要素だ。広葉樹林帯は栄養があっていい水が生まれる。やはり人が多く暮らす地域はよくないようだ。少なからず汚染される。そうした条件を満たす場所は限定される。その条件を満たしているのは馬瀬側水系と長良川上流域の一部しか該当しない。日本の川では極めて珍しい形態であり、環境の川なのだ。水質、水量、水の速さ、丸石の硬度全てにおいて良いからだ」

館長の話に皆が納得していた。鮎が貴重な料理と感じられる瞬間となった。事実、鮎は本当においしく皆が堪能した。鮎の刺身、田楽にフライが出された。最後に鮎雑炊が出された。お腹が満たされ、お酒も入って議論に熱が入っていった。

館長の話が続いた。

「津島や堺の大店は今日でいう商社と同じだ。産地から生産物を仕入れる。それを一番高く売れる地域に物を運ぶ仕組みだ。商品が多ければ値段が下がる。その場合は大量に仕入れて倉庫に保管する。値が上がれば小出しに出荷する。だから儲かった。その商売の秘訣は知識と情報だ。それに尽きる。その能力に勝った店が繁盛している。今日の商社と同じだ」

悠子は館長にたずねた。

「ひょっとすると外国の知識、情報も手に入れていたのですか」

館長が答える。

「当然だ。欧州はともかく、中国や東南アジアの情報は絶えず仕入れていた。日本にない貴重な珍品は高値で取引できた。それに伴って文化や知識や情報が伝わってくる。中国の都で流行始めた茶の道具や喫茶の心得も伝わったに違いない。茶道具はすでに高価な商品として扱われていたと考えられる」

さらに話は続けられた。