バツが悪くて押し黙っていたら、

「嫁っていっても、離婚したから元嫁なんだけど」と彼女は付け加えた。

「なんか難しい関係だよねえ。もう親族じゃないけど、知り合いだし。お葬式出るのもはばかられるから、香典だけ置いて帰ってこようと思って」

彼女の姿を横目でチラ見しながら、まあそれなら、と思った。喪服でなくてもいいのか。それでこんな天気のいい日に黒いスウェットか、などと納得する。納得できないのは、どうして兄の元嫁が亡くなったのか、だ。彼女が悲しんでいる様子もないので、つい訊いてしまう。

「まだ若いんでしょ、元嫁って? なんでまた、死んじゃったの?」

すっと、彼女は横を向いてしまった。やはりショックを受けているのだろう。言わなければよかったと後悔していたら、「事故だって」

正面を向き直し、彼女は答えた。

「わたしと同じみたい、交通事故」

やがて斎場に到着すると、松葉杖を突いて、告別式の案内看板のある入口に向かい、彼女は歩いていった。

見送ると、シートを倒してぼくは待つことにした。斎場内の愁嘆場を想像するより、車の天井を見ている方がマシだった。運、というものを思っていた。

事故の状況は違うにしろ、あの女は右足首の怪我で済み、兄の元嫁という女の人は、不運にも死んでしまった。運なんてものを全然アテにしていないような人にこそ、運はほほ笑むのだろうか。運は運でも、あの女の場合は悪運だな、などとほくそ笑んでいたら、松葉杖を突いて彼女が戻ってきた。

お待たせ、と言う顔は、さすがに沈んでいた。どうだった? と尋ねるのもはばかられ、ぼくは無言で車を発進させた。