連休明けの学校で調子に乗った僕は宮園に祭りについて話しかけたが、けんもほろろ、借りてきた猫のようだった。昼休みになって僕の席に調子のいい秋吉がやってきた。僕は机の上に叔母さんが持たせてくれた弁当を広げた。一方、秋吉はパンを片手に窓辺にもたれながら、パック入りのジュースを咥え、音も立てずに吸っている。

「なあ、入学式の写真見たか」

「ああ見たけど」

「二組の奴に集合写真のコピーをもらったんだけどいる?」

「いらねーよ」

咽びそうになった。赤い顔をそらした先に廊下を歩く樹先生の姿があった。教室と廊下の間を隔てる壁は腹部辺りから上が窓になっている。たまに廊下を通る人に観察されているような気分になる。水族館の魚にでもなったような。

「げ。樹が来たよ」

樹先生は教室のドアに手をかけて入ってきた。クラスメイト数人と話をして、話が済んだのか、ドアの方へ足を向けた先生と目が合った。

「樹」

秋吉が手を振った。

「先生な」

樹先生は呆れた表情で歩み寄ってきた。

「先生、昨日祭りに行ってた?」

「ああ、行ったよ。君たちもいたの?」

「そうだよ。翼が久しぶりの下関だからさ」

秋吉が僕の肩に手を回してポンポンと叩く。

「ああ、月島君はもともと下関に住んでいたもんね」

「え、先生知ってたんすか」

秋吉が目を丸くしている。隣で中学から引き継いだ書類か何かに書いていたのかなと勝手に納得する。

「え、ああ。美晴先生のお子さんだったから」

「え」

僕は目が点になった。母のことをニュースで知っていたのかと思ったけれど、樹先生が母を呼ぶ声に親しみを感じた。それもそうか。母の教え子が大人になってそして教師になっていてもおかしくはない。それくらい時間は過ぎていた。

「先生にはお世話になったよ。美晴先生のことは、その大変だったね。何かあったら、相談のるからね」

「ありがとうございます」

先生は優しい笑みを浮かべて去って行った。

【前回の記事を読む】「はい」その二文字が、他の誰の声よりはっきり聞こえて。間違いない、あの子だ…