第二章

一年一組

先生に言われた不審者を口実に僕らは一緒に帰ることにした。二人は言葉を交わすこともなかった。沈黙が重い。僕だけが気まずいのかと思えるほどだ。宮園のほうはどこに視線を合わせればいいのか迷って、正面だけを見つめてバスに揺られているように見えた。話をしたいのに、言葉が出てこない。

先生と何を話していたの。聞きたいことはたった一言のはずなのに、その一言が重たく口の中で粘り気を持っていた。けれど飲み込むには、重すぎて僕は口を開けたり閉めたりするばかりで、どうしようもない。

雑談でも何でも話せればいいのに、それさえもネタが浮かばない。バスは空席が目立つが、二人横並びでつり革に掴まった。正面向かい合っていたら、口を開けば話さないといけないと緊張して、二枚貝みたいに真一文字に唇を結んでいただろう。

宮園はどんな顔をしているのだろうか。顔は正面に向けたまま、目だけ移して宮園の顔を伺う。その目は虚ろで何か考えているのだろうけれど真意が掴めない。どこか遠くを見ている宮園との距離が遠く感じる。

「ねえ、大丈夫?」言葉を続けようとしたのに宮園が食い入るように大丈夫と返す。僕は口を噤むしかなくて、また言葉にできない思いを持て余す。ポケットに手を突っ込んで中に入っていた十円玉を手慰みにくるくると回した。

宮園も気まずいのかしきりに鞄を持ち替えている。バスを降りた後も気まずい無言を引きずって、昔遊んだ近所の公園まで歩いたところで、宮園が足を止めた。宮園は俯いたまま唇を引き結んでいる。僕は先に進んだ一歩分、振り返って宮園を待つ。意を決したように僕を見上げた。苦しそうに眉を寄せていた。

「ねえ、なんで帰ってきたの」

急に放たれた言葉に、まごつく。僕は混乱した頭で、言葉を返そうと思った。公園から遊ぶ子どもたちの元気な声が僕らの間で空疎に流れていった。

「ごめん」

「なんで、もう会うこともないと思っていたのに、何で帰ってきたの。折角リセットしたのに、なんで、私に話しかけるの」

僕はずっと宮園を追い詰めていたのだ。何か言わなくちゃと思って出た謝罪を皮切りにこらえきれなくなったように呪詛のような言葉をまき散らした。宮園の目に涙が浮かんできた。僕は胸を突かれたように動けなくなった。