プロローグ

夕暮れが嫌いだった。

町内放送が五時を報せるのを合図に、公園で遊んでいた子どもたちは帰り支度を始める。五分後にはバイバイと手を振りながら、公園を出て行く。聞こえていたはしゃぐ声がだんだん遠退いて、代わりに静けさが冷気のように足元からやってくる。

「また明日ね」

そう言って引っ越した子もいたのに。

「また遊ぼうね」

続きはないのに。私も帰らないといけない。けれどまだ遊び足りない。手を振り返す瞬間がひどく寂しくて怖かった。明日なんて来なければいい。お別れのないままこのまま遊んでいられたらどれだけいいか。心に空いた穴を見ないふりして、明日があると信じきった友人たちを見送った。

鉄棒を触った手が鉄さび臭い。遠くで聞こえる町内放送、カラスがかすめた影法師、東に迫る夜の闇。私だけが夕方に慣れなくて置いてけぼりをくらったような気がしていた。

他の子どもたちが楽しそうにさよならと言えることが羨ましかった。

その日もいつも通りの夕方だった。幼稚園から帰ってすぐに家を出て、公園に足を踏み入れた時には子どもたちが数人集まっていた。私もその中に混ぜてもらった。

いつの間にか別れの時間になって、子どもたちが散り散りになっていくのを、ベンチに腰かけて、遠巻きに眺めていた。最後に公園に残ったのは、今まで深く関わることのなかった男の子だった。男の子は私と目が合うと、つかつかと歩み寄ってきた。

「帰らんの?」

私の目の前でぴたりと立ち止まった。その瞳を好奇心で染めて、私の顔を覗き込むように首を傾げた。

「うん」

「そうなん」

頷く時に一歩分たじろいだ私の隣にちゃっかり腰かけて、大ぶりの鞄を膝の上に抱えた。中身はあまりないようで、ファスナーの間から空気が抜ける音がする。男の子は私よりも少し背が低いから目線が下にあった。ベンチに座ると足が地面につかなくて、持て余したようにふらふらと揺らした。同じくらいの年ごろに見える。私は爪先だけなんとか伸ばして地面につけた。