第一章 新しい家族

引っ越し

引っ越した家は、外階段の踊り場のドアを開けると狭い廊下が突き当たりの壁まで通って、正面に小さな窓が見える。壁も天井も黒ずんだコンクリートで、ペンキも塗っていない。廊下は暗くて天井の蛍光灯は昼間も必要だった。コンクリートの廊下に新しいカーペットが敷かれ、二つの部屋のドアを裸足で行ったり来たりできる。

階段の踊り場に出るドアが玄関になって、新しい表札とチャイムが付けられていた。平井のおじさんが

「階段側は世帯持ちの住み込み用で、奥はひとり者が二人で住めるように作ったんだな。うまいとこ見つけたなあ」

と昭二兄ちゃんに話してた。階段側の部屋は台所と食堂が一緒の部屋が広くて、風呂場も付いている2DKだった。畳の部屋とフローリングの部屋が一つずつある。僕たちがフローリングの部屋、おばあちゃんが退院したら畳の部屋。お祖父ちゃんもたぶん一緒に住む。

僕たちの部屋には、細長い新しい仏壇が置かれていた。その前に白木の台を置いて二つのお骨を置いた。廊下の奥の部屋に千恵姉ちゃんと昭二兄ちゃんが住む。ドアを開けると狭い板の間と流しの(むか)いに二つの部屋が並んでいて中はどっちも三畳ぐらいだ。フローリングの食堂と日当たりのいい僕たちの部屋。由美がはしゃいでいるから抑えたけど、僕の目の前がぱっと開けたような気持ちになった。これからはここにずっといればいいんだ。

一緒に暮らし始めてから、千恵姉ちゃんは由美が思い付くままいろんなことを訊くと、由美にもわかるように話してくれた。昭二兄ちゃんと千恵姉ちゃんは結婚して二年も()っていなかった。僕たちが千恵姉ちゃんと会う機会は少なかったし、会うときにはいつもお父さんとお母さんがそばにいた。

僕たちは千恵姉ちゃんのことをあんまり知らなかった。千恵姉ちゃんも僕たちのことをいろいろ知りたがった。お祖父ちゃんがやってる居酒屋は日曜だけがお休みだから土曜日遅くに来て月曜の朝帰っていく。お祖父ちゃんが来て五人で晩ご飯を食べるときには、みんなでたくさん話をした。初めて聞くことばっかりだった。

千恵姉ちゃんのお父さんは小さい頃に出ていって、静恵おばあちゃんが一人で千恵姉ちゃんたち三人の子どもを育てた。

「母が遅くまで働いていたし、日曜日も仕事のことが多かったから、ほとんど子ども三人でご飯食べていたの。だからこうやって家族揃って晩ご飯を食べることが本当に少なくてね、今はみんなと一緒に食べられて嬉しいわー」

明るい軽やかな話し方だったけど、お祖父ちゃんは