第一章 新しい家族

引っ越し

その日から新しい楽器を吹き始めた。ピストンの戻りが早くて全然違うし、音の濁りが少なくなった気がした。隣で吹いていた桃井先輩も「前よりずっといい音が出てるよ」と、目を細めて褒めてくれた。その日の全体練習はいつもよりずっと楽譜を追って吹けた。新しい楽器が僕に自信をくれた。

夜、お姉ちゃんたちの部屋に行き、楽器ケースの蓋を開けて、お釣りと領収書を入れた袋と一緒に「ありがとう」と書いた紙を載せて小さなテーブルに置いた。

由美は三年生になってもクラスは持ち上がりで、右肩上がりで元気になって、千恵姉ちゃんに勧められて水泳とピアノを習い始めていた。それ以外の日はほとんど僕より由美の方が早く帰っている。からかわれるのは仕方がないと諦めて、千恵姉ちゃんにリクエストされた曲は自分の部屋で練習しようと決めたけど、部活の方がそれどころではなくなった。

夏休み中にあるコンクール地区大会の出場メンバーは、二、三年生ばかりだけど、楽器ごとのパートで人数が不足すると例外的に一年生が出場メンバーに入る。パーカッションの安藤君とフルートの女子一人が一年生からメンバーに入っていた。

ところがトランペット三年の安西先輩が急に部活を辞めてしまった。桃井先輩に辞めた理由を尋ねると、「勉強したいからだって」とふくれっ面で教えてくれた。直後「あっ」と言って、「たぶん、坂上君か華山さんがコンクールに出ることになるかも。きっとそうなるよ」

実際その通りの話が部長から伝えられた。僕はびっくりして華山さんの顔を見た。どちらかがコンクールメンバーになるのだ。でも華山さんはにやっと笑って、黙って僕を指さした。

確かに楽器を買ってもらってからは家でも練習したし、最近は合奏でも僕の方が曲についていけていると思う。でも、コンクールに出るわけではないから課題曲の難しい所や高音部分は無理に吹こうともしなかった。

今から先輩たちに追い付くなんてと呆然としているうちに、その場でパート会議が始まり、僕をコンクールメンバーに入れることが決まってしまった。僕はサードトランペットで、二年生の塩谷浩一 (しおやこういち)先輩と一緒だ。華山さんはサードのサポートになった。

とんでもないことになっちゃった。