第一章 透視男誕生

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「今日も来たのか、太郎」

振り向くと、石段の降り口に立っている老人のやせた草履履きの素足が見えた。立ち上がって向き直ると、神仙老人が杖をつきながら石段を下りてきた。

「漣さん、話を聞いてもらいたくて、今日は来ました。あなたの言っていたことは間違っていませんでした。初めは夢でも見ているのかと不思議に思っていましたが、今は信じています」

「だから、お前はバカだといったのだ。不思議というものと不可解と言うものを混同しておるのじゃ。不思議というものは人間の能力では解決できないだけで、能力が備われば解決できることじゃ。仏教でたとえれば、五神通のようなものじゃ。不可解とは何を以てしても解けぬ謎じゃ。つまり答えのない問題のようなものじゃ。ところで、訊きたい話とは何じゃ?」

神仙老人は太郎のところまで下りてくると、石段に腰かけた。太郎も引き込まれるようにして、隣に座った。

「実は、お授けいただいたお力、透視力をどのように使ったら良いのか分からないのです。人のために使えと言われましたが、ただ人の背後の憑き物が見えるだけで……」

太郎は神仙老人を真剣なまなざしで見つめていた。

「ほう、透視力が使えんとな。それは宝の持ち腐れじゃ。いいか、太郎。お前が自分の利益になるために利用するなと言ったのであって、みんなのためになるのであれば授けた力を使えば良いのじゃ。例えば、大きくは会社の中で不正が行われているのを暴くとか、小さくは会社内でのいじめなどを回避させてやるとかじゃ。お前の心掛けしだいで、どうにでも変わる。昨夜話した説明をもう一度思い出してみると良いわ。それじゃ、また必要な時に来なさい。」

「ふぉふぉふぉ……」

神仙老人は低い笑い声と共に今夜は一瞬にして消えた。

太郎は目の前で起こった現象を見て、不思議と不可解が頭の中で絡み合ってしまっていると思った。