第二章 怒れる上司と見守るアシスタント

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それも、多方面からの情報によると、本当の発注ミスは川原由紀と言うアシスタントの入力ミスが原因だったみたいだ。山沖はペアを組むアシスタントをかばっていた。

山沖は背丈が自分と同じくらいで童顔の川原由紀にぞっこんいかれちまっていたから、体を張って彼女を守っていたのだろう。結果として、得意先からクレームが上がり、工場からも発注ミスによる増産はすぐにはできないと突き上げを食らってしまった。

山沖一人の裁量では事態の収拾がつかなくなってしまい、得意先の生産管理部長から田所課長に直接電話が行ってしまったようだ。山沖はたれ込まれる形で発注ミスを露見させる結果になった。

追い打ちをかけたのは、当該の製品が今期の主力製品で売り上げをけん引していたもので、得意先は大口の取引先だったことだ。営業二課としても課の営業成績を左右する問題である。

田所課長の怒りが頂点に達するのも分かる気がしたが、いびり方が良くない。冷静になればいじめても問題解決にはならないのは分かると思うのだが、人間の感情は憑き物で動かされているからコントロール不能になるのだ。

山沖を課長席の横に一時間も二時間も立たせておいて、気が向いた時に怒鳴ったり、いや味を言っていてもしようがないと思う。アシスタントの川原は心配そうに見ている。元はといえば自分のミスから起こった出来事だ。気が気でないのだろう。

デスクからセミロングの髪をかき上げ、ちらちら横目で立たされている山沖を見ている。目は潤んでいた。

山沖は三日連続で立たされていた。ペアを組む同僚の窮地を何とかしようと、透視を使ってみた。田所課長の背後には、刀を振り上げた殿様がいた。山沖を見ると、ひれ伏す農民の姿が頭の後ろに見えた。ついでに視線を川原に向けると、泣きべそをかいている少女が張りついている。

(どうしたら事態の収拾ができて、問題解決につなげられるのでしょうか? 神仙老人……)妙案が浮かばない空っぽの頭脳にいや気がさしてくる。デスクから三人の様子を代わる代わるながめていた。