第一章 透視男誕生

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「――まず、『必要な時だけ背後の憑き物を透視する方法』じゃ。 朝起きたら、顔を洗い、歯を磨き、ひげをきちんとそり、身を整える。そして、鏡に映った自分の顔に向かって二度かしわ手を打つ。これで憑き物は見えなくなる。ただし、一晩寝れば効力はなくなってしまうから、毎朝これを行うことが必要じゃ。

それから、必要な時に相手の背後を透視して憑き物を見るには、相手に向かって両手を組み、両手の人差指をつき合わせて相手を指す。その間だけ透視が続く。組んだ手を解くと見えなくなる。

次は、『透視した憑き物の特徴について』じゃ。昨夜話した通りじゃが、補足しておく。一つ目の先祖、例えば、刀を抜いた武士が見えたら、敵意をもっておるということじゃ。二つ目の先祖がしてきた信仰、四つの傾向があると言ったのう。

一つ目が神様系、例えば、神主なら、祓(はら)われる、つまり相手にされないということじゃ。二つ目が行者系、例えば、山伏姿なら、我が道を行くで自分勝手に進んでいく傾向じゃ。三つ目が稲荷系、例えば、狐なら、調子よく気分次第で変わっていくということじゃ。だますのが本質で、怒らせると執念深く、命まで狙ってくることもあるぞ。

四つ目が龍神系、例えば、蛇なら、つかみどころがなく、執念深く、策略を巡らす傾向があるのう。最後に、『透視した憑き物の対処の仕方について』簡単に話しておく。今話した特徴を基に、自分で対処を考えることじゃ。これは経験というか、修行じゃ。憑き物は変幻自在に変わる。その都度、憑き物を入れ替えさせることを考えることじゃ。

残念ながら、今授けている力では憑き物を即座に善なるものに変えることはできん。対処法で問題を切り抜けるのじゃ。 ただし、一つだけ忠告しておく。授けた力は人のために使うのが大前提じゃ。私利私欲で使ってはいかんぞ。太郎、お前の背後が邪悪になってしまう。わしに会いたければ、この時間、この場所に来れば必ず会えるからな」

老人は言い終わると、足先から姿を徐々に消し始めた。

「すみません、名前を教えて下さい」

慌てて太郎は、上半身だけが残る老人に向かって話しかけた。