第二章 伝統的テコンドーの三つの要素

(六)チュングン(漢字表記:重根)(動作数32)

この型は、伊藤博文を暗殺した愛国者、安重根(アン・チュングン)の名にちなんでいる。伊藤博文は、初代日本総理大臣と初代韓国統監であった。また、韓国併合において先導的立場にあった人物である。

アンは、一九〇五年、第二次日韓協定が締結された後に伊藤を射殺した。この条約は、韓国の外交権を剥奪し、韓国を日本の保護領と定めるものであった。公判中、アンは伊藤の暗殺を正当化する十五ケ条の「罪状」を列挙した。

  1. 韓国王妃、閔妃(びんひ)を暗殺したこと
  2. 高宗(朝鮮王)を退位させたこと
  3. 韓国に対して不平等な十四ケ条を強制したこと
  4. 罪のない韓国市民を大虐殺したこと
  5. 力ずくで、韓国政府の権力を奪ったこと
  6. 韓国の鉄道、鉄鉱、森林、そして川を略奪したこと
  7. 日本紙幣の使用を強制したこと
  8. 韓国軍隊を解散させたこと
  9. 韓国人が自国の教育を受けることを妨害したこと
  10. 韓国人の海外留学を禁止したこと
  11. 韓国の教科書を没収し焼却したこと
  12. 韓国人は日本の保護が必要だと世界に噂を広めたこと
  13. 日韓関係は敵意と対立で満ちているにも関わらず、日本天皇に対して良好であるという嘘を伝えたこと
  14. アジアの治安を乱したこと
  15. 孝明天皇を暗殺したこと

「私は、伊藤博文を殺害しました。彼は、東洋の平和を乱し、日韓関係を悪化させたからです。もし韓国と日本が良好な関係を築き、平和な社会を維持することができれば、両国は、地球上の五つの大陸を通じて見本となるべき国になると私は期待しています。私は、伊藤の意図を誤解して彼を殺害したわけではありません」

アン・チュングン……チュングンの型の動作数32は、一九一〇年、彼が刑務所で処刑された時の年齢を表している。

(七)テェゲ(漢字表記:退渓)(動作数37)

テェゲとは、著名な学者、李滉 (リ・ファン、一五〇一―一五七〇年)の雅号である。宋明理学には、李氏朝鮮時代を代表する二人の権威がいて、その一人が李滉であった。もう一人は、同世代で彼より若い李珥(ユル・ゴク)である。

李滉は、嶺南学派と私立儒学教育施設である陶山書院の二つを創設した。また生涯において、政府の役職をいくつか任され、腐敗した政府官僚の排除にも貢献した。

李はその誠実さで世間に知られた。自身の信条に対する固い誓いは、時に彼を都から追放したが、四十年に渡る公務で仕えた中宗(チュン・ジョン)、仁宗(イン・ジョン)、明宗(ミョン・ジョン)、宣祖(ソン・ジョ)という四人の王たちからの委嘱によって、退職したにもかかわらず、何度も職場復帰をしている。

現在、李滉の肖像は、韓国の1000ウォン紙幣に用いられている。また、テコンドーではテェゲという型名を用いて李滉の名誉を讃えている。この型の動作数37は、37度線上にある彼の出生地を象徴しており、その演武線は「学者」を表している。

(八)ファラン(漢字表記:花郎)(動作数29)

ファランの型は、五世紀、新羅王朝時代に始まった青年貴族の軍団、花郎徒(ファランド)から名付けられている。ファランドは、様々な技術の訓練を受けたエリート集団であり、その中には馬術、剣術、アーチェリー、槍投げ、石投げ、ポロ(馬上球戯)、はしご登りが含まれている。

こうした肉体トレーニングに加えて、ファランドのメンバーは、仏教、儒教、道教の規範から多大な影響を受けており、詩、歌、踊りも習っていた。七世紀までに、ファランドは名誉ある一流の団体にまで成長し、団体数も数百にまで上った。

最終的にファランドは韓国の三国統合の原動力となったが、本来は軍隊としての特性を持っていなかったため、ファランドの実際の役割については歴史的な議論が残っている。

この型の動作数二十九は、第29歩兵師団を象徴している。チェ・ホンヒ将軍によってテコンドーが発展した場所でもある。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『人の道 伝統的テコンドーの解釈』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。