ジャンネット

次の年、聖歌隊と正式に契約を結び、ローマでの生活が続いた。

七年後、故郷パレストリーナの大聖堂オルガニストという新しい仕事が与えられ、家に戻った時、父は新しい女性マリアと再婚していた。マリアは良く家の仕事をする人であった。弟や妹とも上手くやっているようであった。しかし、家の中からは母パルマの思い出が日増しに薄れ、ジャンネットは寂しさを感じていた。

サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂のアンドレア・ヴァッレ司教は、パレストリーナ司教を兼任していた。ジャンネットが、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂聖歌隊と正式な契約を交わした際も、司教より陰ながらの援助があった。今回もパレストリーナ大聖堂のオルガニストに欠員が生じた為、ジャンネットが推薦されたのであった。

「音楽と深い信仰により聖なる礼拝に仕え、パレストリーナ市の一層の発展に尽くし、全市民の名誉となる事」

を誓った。その後パレストリーナ司教は、デル・モンテ枢機卿に変わった。ジャンネットはこれにより、音楽家としての門を更に大きく開く事になったのである。それはしばらく後の話。

ジャンネットは、オルガニストとして、全ての祝祭日にオルガンを弾き、聖務日課には祈祷席で祈った。他に、司教座会員への音楽指導や、子供達への教育も担当した。その毎日の姿を、密かな憧れを持って見つめている女性がいた。ルクレーツィアである。ルクレーツィアは、町の豊かな家の末娘であったが、父を失ったばかりであった。

「ジョヴァンニ様。ローマでの聖歌隊はどのような生活でしたの」

「ジョヴァンニ様。今度はどのような曲を、お作りになられたの」

「ジョヴァンニ様。お亡くなりになられたお母様は、どのようなお方だったの」

「ジャヴァンニ様。ピエルルイージという名前のいわれは何なの」

ルクレーツィアとの会話は楽しかった。彼女の為に数多くの作曲をした。

「もう、みんなと同じようにジャンネットと呼んでおくれ。僕も君をルクレーテとこれから呼ぶね」

ジャンネットにとって三歳年下のルクレーテは愛おしくてたまらなかった。