三十

転機が訪れた。スタートはあるコンペで修作が受賞をしたことだった。

その通知を受け取ってから数日して、前々からはじめていた婚活が、七ヶ月目にして、やっと交際をOKする女性が現れた。女性は看護師をしていて、離婚歴があり、子供がすでに二人いた。シングルマザーとしてまた看護師として、仕事と子育てに奮闘していると担当者が話していた。是非申し込みたいと修作は答えた。

当日待ち合わせたカフェに現れた女性は生活に疲れたところなどなく、むしろ生き生きとした活力に充ちている。どちらかといえばおとなしい性格の修作にはパートナーになってもらえたらよいと、闊達に話している相手を見ながらずっと考えていた。

話し方も職業柄かもしれないが毅然としてはきはきとしていて、修作には好感がもてた。お見合いが無事済み、お付き合いに進展していく返事が相手からくることを修作は心待ちにして願っていた。とにかく受け入れ応えてくれる女性にようやく巡り会えたことに修作は泣きたいほど感謝した。

とにかく修作の女性運のなさといったら、驚くほどないので、ネガティブに考えてしまう。それがそもそも女性と出会ってもよくないところであるから、今回はそういう考えをできるだけなくし、うまくいけば、女性と付き合えるのだと強く思って臨んだのだった。

そういう意味では運気が上がっているという思いは大きい。たとえ思い込みであったとしても、思えば実現するんだという自己への暗示、印象づけは大切なことだろう。

修作は親しい友達が欲しい。親友といえるのは、一人もこれまで生きてきて得たことがなかった(親友とはいったいどういう存在なのか)。結婚すれば、相手は妻となり、家族となりはするだろうが、修作は最も親しい友が妻となるのが理想的な姿だと長く思い続けてきた。きっとその直感はまちがってはいないはずだ。妙に自信がある。根っこからいつでも根拠のない自信だけは持っている。

実を言うと、看護師とのお見合いなんて成立してはいなかった。修作の淡い期待と妄想のつくりだしたフェイクである。あわれかな、オッサンの夢想なり。妄想ではなく現実になると思っていたのだから、案外修作はポジティブな思考の持ち主ではないのか。暗い、ネガティブと受け取られることが多いが、本当のところはかなり陽気でおめでたい人間なのかもしれない(自分で気づいていないだけで)。でなければ、ここまで独身で平気な顔をしてはいられなかった。