天の微禄

わが国では、酒にまつわる歌が万葉集に詠まれていることを見ても、すでに七世紀後半から八世紀初めころには、飲酒が庶民にまで浸透していたことがわかります。さらに『古事記』には須佐之男(すさのおの)(みこと)が、()(またの)大蛇(おろち)に酒を飲ませて酔っ払わせ退治したとの記述がありますから、これはやはり神代の時代から酒が飲まれていたということになりましょう。

では中国ではどうかというと、「酒は百薬の長」ということばを中国前漢の歴史を記した『漢書(かんじょ)』に見ることができるということですから、少なくとも二千数百年前には、すでに酒が飲まれていたということになります。

前述の『遊遊漢字学』より、阿辻先生の博識をお借りします。『漢書』には、

「それ塩は食肴の将なり。酒は百薬の長にして、()き会の(よしみ)なり。鉄は田農の本なり……」

と表記されているのだそうです。そうすれば、以来二千年以上に亘って、酒飲みはこの成句を珠玉のごとく大切に温め、飲酒の弁護に努めてきたということになりますね。

また漢書にはこの他にも、

「酒は天の微禄(びろく)にして、帝王の天下を養う所以なり」とか、

「百礼の会は酒あらざれば、おこなわれず」

という文言も見られるのだとか。

う~む、「酒は天の微禄(びろく)」とは、これまたいい響きではありませんか。帝王が天命によって民草のために治政を執る。国を治める唯一の対価として、天が皇帝に与えたわずかばかりの褒美が酒ということですから、早速妻に言って聞かせなければなりませんな。

「たとえ過ぎたるといえども、酒は天の微禄なれば、わが家を養う所以なり」と。

……ダメか?

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