第一章

一年一組

たぶん僕は秋吉に頭が上がらないと思う。今だってこうやって揶揄(からか)ってくるし、くっついたらくっついたで、冷やかされ続けるか、恩着せがましく肩をたたいてくるだろう。風が吹いた。その拍子に瞑った瞼の裏に宮園の姿が浮かんでくる。

僕は下関で生まれた。産みの母親は僕が生まれてすぐ父と離婚した。他に好きな人ができたらしい。残された父は、しばらく一人で僕を見てくれていた。気が付いたら父と二人暮らしだった。

父は数年後、僕が幼稚園の年長の時に再婚した。今日から新しいお母さんだと紹介された人はショートカットのよく似合う女性だった。それが鳥居美晴さんだ。高校の教師をしているらしかった。尻込みしてしまう僕によろしくと手を差し出してくれた人だった。僕はすぐに母と呼ぶようになった。

僕は近所の公園によく家を抜け出して遊びに行っていた。そこで出会ったのが宮園だった。幼少期の宮園の笑顔は簡単に思い出せる。先を歩く宮園が夕日の中で、くるりと振り返ると大きく手を振ってくれたことも。背負っていたランドセルから教科書が飛び出していったことも。その教科書を拾おうとした僕のランドセルから荷物が雪崩れていったのを見て大笑いしているのも。

そんな毎日が続いていくのだと信じていた。大人になればこんな毎日が終わりを迎えることも、分かっていたけれど、少なくとも、もう少しあと数年は続いていくと思っていた。

「でもお前ら家近くなんだろ? 一緒に帰ればよかったじゃん?」

「え、近くなの?」

「おまえ、そんなことも知らなかったの?」

友人の僕を見る目には憐れみが浮かんでいた。

「いや、残念ながら、良好な関係とは言い難く」

「確かに。ツンケンしているよな」

秋吉は力なく笑った。眉間に哀愁が潜んでいた。