母は「この後パートがあるから」と言い、かいつまんで話してくれた。

高校時代に不良グループに所属していたという母は、かなりのやんちゃをしていたらしい。

そして、高校三年生の夏休み。海水浴場でガラの悪い男たちに絡まれているところを父に助けてもらった。それがきっかけで二人は交際に発展。その後も母はたびたび粗暴な男たちに絡まれ、時には暴力を振るわれそうな目に遭うことがあったそうだが、父のおかげで数々のピンチを脱出することができた。

ほどなく、母は妊娠。いわゆるできちゃった婚という奴で、高校卒業と同時に母は父と結婚し、現在に至るという。この話のどこが、事実は小説よりも奇なり、なのか。

わたしは首を傾げていると、母が話のオチを聞かせてくれた。

海水浴を始め、母が巻き込まれた数々の不運な事件は、すべて母が不良仲間と協力して仕組んだ自作自演だった。

母は当時、よその高校の不良グループでリーダー格だった父に一目惚れし、なんとか付き合いたいという強い思いから、不良仲間にお願いして父が必ず母に救いの手を差し伸べるよう、わざと喧嘩をふっかける綿密な計画を立てたという。

そして母は、協力してくれた不良仲間には、見返りとして幼馴染のかわいらしい女の子を紹介した。幼馴染が不良仲間の彼女になるかどうかは別の話だが。母がか弱い女を演じているとは露知らず、父は喧嘩相手をやっつける。そのたびに父は勝利の余韻にふけていたそうだが、それも母の思惑通りだった。

父の自尊心をくすぐることで「奈津子を守りたい!」と思わせることに成功したと、母は思い出すように笑った。

事実は小説よりも奇なり、とまでは思わなかったが、わたしには衝撃的な話だった。母がそんな手の込んだことをするなんて。この事実を父が知ったらどう思うだろうか。

その一方で、疑問が浮かんだ。

母は計画通りに父を手に入れたのに、今は幸せそうに見えないのはなぜか? その疑問をわたしはぶつけると、母は諦めの境地のような顔で、「お父さんは、腕っぷしが強いことしか取り柄がなかったのよ」と言い置き、パートに出かけていった。

あの日、わたしは結局、読書感想文を書かなかった。担任の先生にこっぴどく叱られたけれど、それよりも両親のなれそめをうまくまとめることができずに中途半端な読書感想文を提出するほうが怖かった。いつどこで誰から母の耳に入るかわからないのだから。

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