ぼくが二年ほど前から宅配便のバイトを始めたのは、父親の純二が腰を痛めたからだ。

ぼくの家は酒屋で、屋号を『やんばるあけぼの商店』という。なぜこんな奇妙な屋号が付いたかといえば、『あけぼの』はみょう字だから分かるとして、若い頃はるばる沖縄で漁をしていたことのあるぼくのじいさんが、地元に戻って酒屋を開店したあかつきに、若かりし頃を懐かしみ、どうしても屋号に『やんばる』という文字を入れたかったらしい。それでそんなおかしな名前ができたのだ。長たらしいので、実際は『あけぼの商店』で通っている。

ぼくは『やんばるあけぼの商店』三代目あと継ぎということになっている。とはいえ家族だけで細々やっている個人経営なので、店番なら両親に任せておけばいいし、酒の配達といっても一日中配って回るほどの注文などまるでない。あるいは自販機のジュースやタバコの補充という仕事もあるが、それだってたかが知れている。

タバコは何年も前から吸う人も少なくなったし、近くに酒のディスカウントストアができたせいもあり、経営は苦しい。空いた時間を宅配便のバイトに回せば、金も入るということで具合がいいのだった。

うちの店では片手間に宅配便の取次ぎをやっていて、普段はお客が持ってきた荷物を宅配便のドライバーに渡すだけなのだが、お中元、お歳暮シーズンになると、配達の仕事も引き受けるのである。というのも、そのシーズンになると荷物が多量となり、本職のドライバーだけでは配り切れなくなるため、委託と呼ばれるバイトが必要になるのだ。

それまでは父親がやっていたのだが、二年ほど前に腰を痛めたために(ビールケースを持った拍子に痛めたというならまだしも、スノボですっ転んだというのだからふざけている)、その年のお歳暮シーズンからぼくがやることになったのだ。

宅配の仕事はハードなので、前々から父親にもう代わってくれと頼まれていたのだが、面倒くさそうなので逃げ回っていたのに、引き受けざるを得ない理由を持って来られてしまった。

始めた当初は勝手が分からず、右往左往イライラして配っていたものだ。得意先のみに届ける酒の配達と違い、無数の知らないドア、無数の見知らぬ人へと荷物を届けることに、戸惑いもあった。それほど社交的な人間ではないから、ドアの向こうからどんな人が出てくるのか、ちょっと身構えたりドキドキしたりして。

今ではすっかり慣れてしまい、淡々と作業をこなしていればけっこうな収入が得られるという、夏と年末、恒例のお得なバイトとなっている。