初夏の緑

小さな谷を若葉が埋めつくして 風までが黄緑に薫るようだ

美しい思い出等とは言うまい

あれ程の苦い別れがあったのだから ──

神への参道は 年経た古い杉が立ち 黒々と神さびて 季節をも閉じこめている

あの頃の日々は、だが、日一日と輝きを増してなんともくやしいながら、目の前に現れるのだ

(もみ)の木は古い葉の先に 若葉がまるで蝉が抜け殻を出た時のあやうさで とってつけたようにふるえている

あれからの日々を失意の日々と言うならば

こうして苦にがく静かに初夏の緑を見ているのは

どのような日々と言うのであろう