私自身もまさか十年も、野良猫達と付き合う羽目になるとは、最初は思っていませんでした。私がどうして野良猫達の世話をする事になったかと言うと、理由があったからなのです。

産まれてすぐの子猫達は動けないから良いのですが、少し大きくなると、勝手に動いてしまいます。野良猫達をお世話する様になって知った事は、同じ所にいると、人間やカラスなど危険から子猫を守れないからか、親猫が子猫を口に咥えて移動し、雨が降ってくると、濡れない所に子猫を移動させるのです。口に咥えて移動するので、その途中で子猫を落としたりするのです。

その子猫の運が悪いと死んでしまい、亡くなった子猫から、うじが湧いているのを見てからなのです。

「この野良猫達をみてあげなくては」

と、ふと思ったのがきっかけで、気がついたら十年もの年月が過ぎていたのです。しかし野良猫達は、どんなに可愛いがっても、毎日餌をあげても、人間には近づこうとしないし、心から信用もしていないのです。又野良猫達には、飼い猫みたいに名前がありません。それで一匹一匹に名前をつけてやりました。何しろ十二、三匹もいればいつも名前を間違えていましたが。

野良猫達の性格も皆違いました。喧嘩ばかりしてくる猫もいて、ある時喧嘩をして傷をおい、膿が全身に回ってしまった猫を慌てて病院に連れて行き、手術、入院もさせた事もありました。膿が全身に回ると、強烈な悪臭がするのです。又高い所から落ちて足がおかしくなった猫を、病院にやっとの思いで連れて行き、手術、入院もさせました。又去勢も捕まえてはやりました。

飼い猫と違い、野良猫を捕まえる事は本当に大変でした。捕まえようとすると、穏やかだった猫が、急に天井の高さ位まで壁を必死に上りつめ、逃げようとするのです。この時

「猫ってすごいな」

と思いました。当時は私の働いたお金は、すべて野良猫達の餌代、病院代で消えていました。入院でもしたら、凄いお金がかかります。でもいくら野良猫とは言え命ある身、瀕死状態の猫を病院まで連れて行き、

「この位費用がかかりますがどうしますか?」

と言われ、

「では結構です」

とは、どうしても言えませんでした。それは死んでもかまわないという意味であり、治療をお願いするしかなかったのです。