【前回の記事を読む】来て間もない私にも感知できた…イギリスに残る「階級社会の姿」

Ⅰ ヨーロッパ

(四)ロンドンの日々

事務所から遠からぬ所には金融の中心シティがあって、昼休みにその界隈に行ったこともあるが、多くのルテーナンのようなジェントルマンが閥歩していた。

当時の冷戦下にあっては、資本主義陣営の覇権はもはや完全にイギリスからアメリカに移っていて、イギリスは戦争の痛手が癒えぬまま、新たな展望も乏しく、苦しい状況の下にあったはずだ。

外から見ていると、イギリスは今度の戦争で多くの資産を失ったが、それでも長きの覇権の下で貯め込んだ貯金で食べている、という印象は拭えなかった。そんな状況の中で、ジェントルマン達がどれほどの危機感を抱いているのかは、とても私の知るところではなかった。

それでも私にとって当時のイギリスは、長い歴史の蓄積の中で培った、政治、社会、生活の成熟度において、日本とは比べものにならない大人の風格がある先達であった。

私の給料は週12ポンドであった。その当時は1ポンドが確か1200円だったから月給で62000円程になるわけだ。調べてみると日本での1965年の大学卒初任給が24100円とあるから、2.6倍位ということになる。

日本は復興期にあるとはいえ、円の実力はまだそんなものだったのだ。ロンドンは東京に較べ物価は高かったが、下宿代が食事込みで週5、6ポンドだったはずだから余裕はあった。実習後ドイツなどを回ってパリヘ行く予定だったから、その旅行費用を貯めることができた。