「なんだかとても不気味で、怪しい組み合わせのカップルだわね。あのツンと澄まして気取っていた女、あの椅子に座っている刺青男と付き合っているのかしら」

その女が海に向かって走っていっても、男は全く気にする様子もなく、パイプ椅子に座ったまま、砂浜の上で黙って本を開いて読んでいた。圭は龍の刺青をした男の横に突然現れ、ボードを抱えて海に走っていった女にとても興味が湧いてくる。

「千佳、今日は波のコンディションが最高だ。あと一時間ほど海に入ってくる」

圭はそのサーファーの女を追いかけて海の中に入っていき、パドリングをして女が浮かんでいる沖に向かっていった。圭は沖にいる女の近くまで行き、ボードにまたがって黙ってその女を見ている。そこに沖から大きな波がやってきて、女はその波に向かって滑るように進んでいく。波のトップでオフザリップの技をしようと試みるが、切り返しのタイミングが少し遅くなってしまい、そのままボードごと体が大きく空中に投げ出され、女は海の中に飲み込まれてしまう。

圭はそのサーファーの女が、自分の得意にする技に挑戦するのを見て驚く。女でその技を果敢に試みるサーファーは、このあたりでは若いプロのサーファーがいるだけだ。女は海面に浮かんできて顔を出し、パドリングで圭のところまで戻ってくる。圭が近づいていき、大きな声をかける。

「惜しかったな。ターンをする切り返しのタイミングが少し遅かったよ!」

女はその声を聞いてこちらを見る。圭を見る女の目は一瞬ミステリアスに輝き、何か冷たい氷のような光を放っている。女は圭の言葉を無視して何も話しかけてこない。女はそのままボードの先端を海の上に突き出してまたがり、沖を見つめて次の波を待っていた。沖から大きな波がやってくる。今度は圭の番だ。圭は素早いテイクオフで滑るように波の壁を走り、波のボトムで体を反転させ、波のトップで得意のオフザリップを連続して決める。最後に片手でボードをつかみ、空中でクルっと360度回転させ、鮮やかに波の壁に着水させると、「イエーイ!」と叫ぶ。

その時、一気に百メートルほど先に進んでいき、乗っていた波が崩れ、ボードと体が波の中に飲み込まれてしまう。圭は海中から浮かんできて海面に顔を出し、サーファーの女が浮いていた海面の方向を見るが、女はもうそこにはいない。砂浜の方ではその女がこちらを向いて軽く右手を上げ、一瞬ほほ笑んだようにも見えていた。

【前回の記事を読む】「ビッグウェーブ、カモン!」初夏の風吹き抜ける湘南で、海に飛び乗って