1973 青山ココパームス

【カリーナハードトップ1600SR】

私と当時信濃町に住んでいたクルマ好きの同級生は、大学生時代、また社会人になってからも夕食を終えるとどちらからともなくお茶でも飲もうかと誘いの電話をした。青山のココパームス(注)というレストランでよく待ち合わせた。現在の山王病院の並びにあり、本当はちゃんとしたレストランなのだがコーヒーとケーキでもOKの居心地の良いお店であった。

ココパームスに比べて店内が明るいお店だったと思うが、こちらのお店にも何度か行って同じパイを食べた。男二人でコーヒーとケーキというのも気色悪いと思われそうだが、当時はまだ夕食で酒を飲む習慣のなかった私には、夜8時くらいのガラガラの青山通りをストレスなく目いっぱい走るのがとても楽しい時間であった。

ココパームスでは、アメリカンコーヒーと大きくカットされたバナナマロンパイというケーキを必ず食べながら、いろいろとたわいのない話をした。

私の友達はこのお店の人気メニューであったチョコレートパイをよく食べていた。子供の頃からケーキと言えば小さくカットされたイチゴのショートケーキくらいしか食べたことのなかった私はまずその大きさに驚いた。

若かったせいもあるが、夕食を取って1時間もしないうちに大きなバナナマロンパイをよく食べられたものだといまさらながら思う。今も昔も国道246はめったに見られないクルマが走っている通りで、それこそフェラーリ、ポルシェなどは全くめずらしくもない。

駐車していたのがいつも店の前だったので、Uターンをせずにアマンドのある六本木の交差点まで行って左折し、溜池から赤坂見附を通り三宅坂経由で帰ることが多かった。

皇居を右手に見ながら少し走ると、左手角に英国大使館のある千鳥ヶ淵の交差点で、今は3車線の一番右の車線からしか右折できないのだが、この頃は真ん中の車線からも右折できた。直進車も通る真ん中の車線から右折した方が早く曲がれたので、少し生意気だったが必ず真ん中から右折した。

右折してすぐに皇居のお濠越しに見える大手町のビル群はとてもきれいで、一瞬わき見運転をして竹橋までゆっくり走った。

毎日新聞社が見える竹橋交差点まで来ると、それまでの友達と共有した夜の短い非日常的な時間から現実の時間に引き戻されてしまうようで、まるで小さな旅が終わろうとしている淋しい時間に似ていた。


注: ココパームスは当時人気のレストランで、その後現在の国立新美術館の近くにもエストという系列店ができた。