頼りたくない母親を訪ねた。玄関前にタバコの吸い殻が落ちている。

「外で話したいんだけど」

ドアフォンで呼び出した。

ドアが開くと母親の背後に再婚相手が不潔な表情で忍び寄ってきた。

「久しぶり」

そう言う母親の声に艶があって気持ちが悪い。

「元気そうでよかった」

アタシが元気そうに見える? このクマ、ヘルペス、気にならない? 自分に面倒なモノは相変わらず目に入れない。

「ちょっとふっくらしてさ、あんた痩せすぎだったからちょうどいいよ」

「やぁナオちゃん、僕」

気味悪いほど優しい声。母親の向こうで舐め回すような視線を送る。

「心配してたんだよ。寮は窮屈だろ。僕に遠慮せずにここに住めばいいのに」

母親の背に隠れ、二つの黒目がナオミの胸と太ももを上下する。

「そうだね、ママの言う通り、前よりふっくらした」

ナオミは、ゆったりしたジャージのファスナーを首まで上げていた。体の線をクソ男から隠したい。それでも母親の再婚相手の目は透視しようと胸に絡む。吐き気がして二人に背を向けた。

「ちょっと! ナオミ! なんなのよ!」

アノ母親は鈍いのか、それとも、全部わかってアタシを人身御供(ごくう)にしようとしているのか。男に捨てられないために。アノ女、捨てられて困る理由は家のローンのためだけじゃない。性ホルモンに支配されただけのオスメスはどこにでもいるみたい。その一人がよりによってアタシの親。子どもは親を選べない。親には、究極の手段があるのに。

「失礼でごめんねぇ」

なんでこんな高い声を鼻から出すんだ? アタシに命令するときはダミ声のくせに。

「いいんだ、年ごろの娘はそういうもんさ」

ぬめりのあるトーンがナオミの背中をしつこく追う。追い出した記憶に再び苦しめられる。こーちゃんとの出会いが封印してくれた悪夢がヘドロのように吹き出す。