すると、「先生にそう言って頂けるのは、私にとって励みになりますが、一方で日本のシンクタンクとして、渾身の思いで行っている政策提言を悉く無視するかのような政治に対して激しい憤りを今感じています。できる事なら政治家達に一矢報いてやりたい、という思いでいっぱいなんです」と捲し立てた。

「で、……何を企んでいるというんだね?」と山脇が問うと、

「一言で言えば、政権をジャックしようと思っています。穏当(おんとう)に言うならば連立政権として政権内入りを果たします」

これを聞いた山脇が、「はぁ、君、正気か? ちょっと過激どころか政権ジャック! って言い方を変えればクーデターを起こすと言っている様なもんだぞ! 君とは長年付き合ってきたが今の話は突飛すぎてさっぱり分からん」と少し不機嫌そうに言った。

「私、政党を立ち上げようと思っています。先生諸悪の根源は、小選挙区比例代表制という選挙制度だと思いません? 内閣総理大臣経験者が小選挙区で落選し、比例で復活してまで国会議員を続ける様な、みっともないこと極まりない例まで生み出して日本国の内閣総理大臣の地位を貶めた元凶も小選挙区比例代表制という制度に他なりません。

国民にコロナだからと外出自粛を訴えておきながら、選良であるはずの国会議員が銀座で飲み歩いて国民有権者から大顰蹙(ひんしゅく)を買っても離党するだけで、無所属で国会議員であり続けられる? 全く納得できません。鼻の下を伸ばした男性国会議員がゾンビ議員として生き延び、国会でも都議会や県議会、市議会でも議員の辞職に関しては辞職勧告までで、辞職させられない事にも、大いに不満を感じています。こういった理不尽を実力行使して、改めてみせます」と武藤が毅然として言うと、

「でも、新党を立ち上げると、どうしてそんな真似ができるというんだね? 私には一向に理解できんがね」と山脇がちょっと投げやりに言った。

「先生は小選挙区比例の定員ってご存じですか? 一一ブロックで一七六人ですよ、小選挙区は二〇一七年の改定以降二八六人ですから三分の二近い勢力で侮れないんです。仮に今の与党が小選挙区で過半数以上当選者を出しても、私が立ち上げる新党がその比例区で七〇議席から一〇〇議席を獲得したなら、連立政権を組まずにはいられません。

支持政党の世論調査から、与党も野党も支持しないという無党派層を、政党票でうまく取り込めれば、一〇〇議席も夢じゃありません。連立政権を組むには当然ながら政策合意をせねばなりませんから、不埒な議員を辞めさせる事や、可能であれば小選挙区で立候補する際の保険機能の様な重複立候補が可能な、小選挙区比例代表制の見直しを迫る心算です」と新党構想を語ってみせると、

「なるほど、そういう事か? これまでの政策提言をするシンクタンクから直接人材を送り込んで政権内で政策を実現する実行部隊を送り込むという事だな、面白そうじゃないか? 確か近畿ブロックの比例代表の議席は二八議席で私は当選者の中に知らない人が一〇人以上も居たよ、確かに比例代表にそれなりの人材を立てられれば君の言う通り一〇〇議席は射程圏内となり得る」と山脇もようやく理解し賛意を示した。