目的は兄弟探しと狩猟に興じること

榎本さんは心配するだろう。かつて2日間俺の姿が見えないだけでも、焦って探し回っていたくらいだ。それが長期間になったら、どうなるかを考えると気持ちが萎えてくる。しかし、俺にとっては、心身ともに絶好調の今をおいては、もうチャンスは二度と来ないだろう。気になっている猫もいなくなるかもしれない。とうとう旅に出たいという誘惑には勝てず、ある秋の日に、決行してしまったんだ。

それとついでにお話しておくが、俺は去勢手術を受けさせられて、性的には雄ではなくなっている。これは猫を飼う人に課せられた義務だから、仕方ないと思っているが、手術を受ける話が出た時は、俺はひるんだ。韓流の宮廷ドラマによく出て来る宦官(かんがん)みたいに、軟弱な感じになってしまうのか、それは絶対に嫌だと悩んでいたが、飼い猫として生きる以上、逃れられない定めと自分に言い聞かせ、しぶしぶ手術は受けた。

だが、それは過剰な心配だった。雄猫では思春期が始まる生後5か月から8か月くらいまでに、手術することになっている。俺もその頃手術したので、思春期を何の変調もなく無事通過できた。

雌猫に出会っても、雌猫として意識しないので、俺の心身面は何の変化もない。ときめきもしないし、魅了もされない。恋愛や失恋とも縁がない。余分なものがそぎ落され、身軽で快適だ。去勢手術をしていても、俺は逞しく活力溢れる青年猫、壮年猫となっていった。雄猫を追いかけたり、狩猟に興じるなど、自由闊達に動き回る毎日で、とても雄々しくエネルギッシュに生きている。

雄猫が家出するのは、雌猫を追い続けて、だんだん遠くへ行って、帰って来なくなるという説がある。だが、俺の家出は「それではない」ということを、念押ししておきたいと思い、お話した次第だ。