「終わりましたね」

「お疲れさまでした」

「ご苦労さま」

審査を受け終わった後、菅平、舞子、水上の三人は汗だくになり、消防署の裏庭で缶ジュースを飲みながら休憩を取っていた。

「しかし、水上さんって女性にだけでなく、子供からもモテるんですね」

汗を拭きつつ炭酸飲料を飲みながら、舞子は水上に話題を振った。

三人が飲んでいる缶ジュースは、伊吹からの差し入れだった。

「カッコいい救急隊のお兄さんに渡してください」と、受付に届けられていたものだった。もちろん買ったのは母親の雫であろう。

「あの親子、けっこう頻繁に消防署に来ているみたいですね。もしかして、お母さんの方も、子供を使って水上さんに近づこうとしていたりして」

「……今度、ウチの署の救命講習会に参加するって言ってた」

「やっぱり! 結構、本気かもしれないですね」

「さて、そろそろ事務室に戻るか。審査会が終わっても、今日は当番勤務だから、これから仕事がいっぱいあるかと思うと気が抜けないけどね」

誰より厳しい訓練をしてきた菅平が言ったとたんに、『ピー、ピー、ピー』と指令が流れてきた。

『六十五歳男性、胸痛のもよう』

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