【前回の記事を読む】【小説】東北地方に隕石が落下…「突然大気中に出現した」の謎

第一章 夏の夜の出来事

二 隕石の落下

やがて、歌番組も終わり、時刻は午後九時になろうとしていた。夫婦の就寝時刻は早い。毎日、規則正しく一〇時には床に就く。二人は寝支度を整えると啓一が先に寝室へ入った。

いつもはほどなくして節子も寝室へ行くのだが、今夜はこの山に引っ越して、初めて経験する熱帯夜に加えて、巨大隕石のショックのせいか、すぐには寝付けそうにない。節子は臨時ニュースが流れはしないかと気にしながら、まだテレビを見ている。NHKテレビは別のニュース番組が始まった。すると、冒頭に再び隕石のニュースが流れる。

「先ほど緊急ニュースでもお伝えしましたが巨大隕石に関するニュースです。隕石は午後七時三二分ころ、東北地方、白神山地の上空二〇〇〇メートル付近に突如出現しました。その後、南下して奥羽山脈上空を飛翔し、一五秒後にレーダーから消えました。隕石の大きさは直径五メートルを超える球形だと推定されます。奥羽山脈を南下する途中でレーダーから消えたため、福島県の北部あたりに落下したものと思われます。落下地点に関する詳しい情報はまだ確認が取れていません。新しい情報が入り次第、お伝えします」

ニュースによって、さっきの真昼のような明るさと地鳴りのような強い揺れは、この付近に落ちた隕石によるものであることははっきりしたが、被害は今のところ確認されていないようだ。節子は不安をかき消そうとするかのように、大きなあくびをひとつすると、寝支度を整えて寝室へ向かおうとした。

と、そこで再び窓が光り始めた。節子は驚いて窓の外を見る。すると、近くに金色に輝いている場所が見える。節子は寝室にいる啓一に声をかけた。

「ねえ、あなた。また外が光っているわよ。気持ち悪いわ。何かが起きているのよ、やっぱり。ねえ、起きてきて」

啓一も寝室に入ったとはいえ、眠っているわけではなかった。やはり気になっていたのだろう。すぐに寝室から出てきた。

「どこだ? 光っているのか?」

「あそこよ。見て。光っているでしょ。明かりが揺れているのが見えるわ」

節子が指差す方向に目を向けると、確かに何かが光っている。それも、ごく近くだ。

「外へ出て、ちょっと見てくる」

「やめて。外へ出るのは危ないわ。だって、何があるか分からないじゃない。警察に知らせようよ。何か異変を感じたら、警察か消防に通報するようにって、緊急ニュースで言っていたわ」

「ここは携帯の電波が届かない所だろ。携帯を使うには三〇メートル離れた高台へ行かなければならないんだ。夜は携帯を使わずに済むように、あえてそうしているじゃないか。日中なら庭の一部だが、今夜のような事件があると三〇メートルが遠く感じられるな。固定電話はないし。どうするかな」

「そうか。携帯は、夜は使えないんだったわね。ほんのわずかの距離だけど、私たちの工夫のひとつだったんですものね」

啓一と節子は、購入した土地に携帯の電波が届かない場所を見つけると、あえて、そこに家を建てていた。それは、山での暮らしが少しでも快適になるようにと、夜は携帯を使わないようにするための二人の工夫だった。

二人は沈黙して窓の外を見る。光は隕石が落ちたときとは異なって、一部の場所ではあるが、依然としてすぐ近くに見える。そこを除けば、漆黒(しっこく)の闇と完全な静寂が森を包みこんでいた。