鬼塚は続けてこれを拡大したものが上手い儲け話を持ち込む手口だと言った。

たとえば架空の会社やファンドを立ち上げる。色刷りのパンフレットはレイアウト代と印刷代を払えば町の印刷屋で大した費用も掛けず簡単にこしらえられる。今はネットで注文も出来る。これで心のどこかにすでに持っている金を更に増やしたいという願望のある人間はコロリと騙されてしまう。

一口五十万とか書いておくと最初は一口、それに対して少々利子を払ってやるとそれじゃ五口、十口とのめり込んでいく。挙句には何千万円も騙し取られて気が付くと何とかファンドは雲散霧消、訴えようにも影も形もない。うまく行くとこの手口は利ザヤが大きいと鬼塚は言った、女二人は互いに目をチラリと合わせたが何も言わなかった。

最後のこけおどし型だが、たとえば彼の悪事仲間に"あなたは訴えられています。これこれの番号に電話してすぐしかるべき手を打たなければ裁判所から差し押さえられます"と印刷したはがきを不特定の宛先に出して電話して来た年寄りから金を引っ張り出すという手口を考え出した男がいた。

鬼塚はそんな手口で魚が餌に食らいつくかと一蹴したがその男はその手口で何億もの金を稼いだという。鬼塚がそんな手口ではだめだと言ったのはそういう文書は通常内容証明付きで送られて来るものだからだが、世の中にはそんな常識すら知らない人間が結構居る。

アメリカだとこんな手口は絶対に効かない。彼らはたとえ貯金が五百ドルしかなくても弁護士を雇う。どんな奴でも先ず弁護士に相談する。アメリカは全くの訴訟社会で、黒いものでも弁護士次第で真っ白になる。もちろんそれも金次第だ。

昔彼がアメリカに居た時に有名なプロのアメフト選手が妻殺しで訴えられて一年間すったもんだの末に無罪になった事件があったが、メディアは訴えられたのが無名で貧乏な男だったら一週間で結審していただろうと解説していた。しかもそいつは実は有罪だった。

有名なバーガーショップ相手に熱いコーヒーを膝にこぼされたと訴えて慰謝料を二百万ドルもぎ取った女もいた。そういうことを彼らは現実社会で見たり聞いたりしている。訴訟と弁護士は彼らの遺伝子にしっかりと刷り込まれた基本因子だ。だからこけおどし型はアメリカでは成功しない。