【前回の記事を読む】借金を抱える女性…警察に追われる危険を承知で行った仕事とは…

招集

鬼塚の周りにはいつも若い男たちがたむろしていた。鬼塚の用心棒で、彼は彼らを”歩兵”と呼んでいた。彼らは鬼塚の言う事に従って動いている。どうしてあんな男の言うままに飼い犬の様に唯々諾々と従っているのか? あの男は奇妙なカリスマ性を持っていると二人だけの時に麻衣は真世に言った。彼に付いて行けばいいことがあると思わせるのが巧みである。

若い男たちは多分暗示に掛けられているか、もっと強く言うと洗脳されている。彼らは鬼塚の手となり足となって連絡役、運び屋、運転手などの役割を当てがわれて動いていた。あたかも彼に従ってさえいればなんでもうまく行くと信じ切っているかのようだ。鬼塚は彼らを巧みにマインド・コントロールしていた。

彼らには共通点があり、皆金に困っていて金の為なら何でもするが、計画性やまとめる力は皆無で、頭の血の巡りは余り良くない。鬼塚はこの世は人を使う者と人に使われる者とから成り立っており、彼らは完全に後者の部類だと言った。麻衣は彼らの事を密かに鬼塚の”猿軍団”と呼んだ。

鬼塚はその他に自分の配下に一見会社の役員風のスーツを着て年齢もやや上で四十、五十がらみの男たち二、三人を従えていて、これらの男たちは”歩兵”よりもう少し手の込んだ仕事を与えられているらしかった。彼らは鬼塚の子飼いではなく何らかの本業を持っているらしい。そのうちの一人はどうやら司法書士だと麻衣は真世に言った。

鬼塚が銀座に繰り出す時はこれらの男たちをお供に従え、”歩兵”は連れて行かなかった。彼の中では手下にその能力に応じたランキングがあって、高級クラブへ繰り出す時は特技のある駒を連れ歩く習性らしかった。”猿軍団”の方はその都度小遣いを貰って新宿の裏小路の飲み屋で憂さ晴らしをしている様だ。彼は女たちは連れては行かなかった。一緒に居るところを人に見られるのはまずいと考えているらしい。