真世はあの男が周りを子分で固めているのでは寝首をかくことは出来ない相談だとつぶやいた。この娘はまだ男の命を狙っているのか? しかし映画の女の殺し屋ではあるまいし、そんな真似が簡単に出来るとは思えない。確かに子分の存在は面倒だと麻衣は言い、

「でも言っとくけれどそれは物事があいつの意のままに動いて金が廻っている間だけのことよ。あいつはつい先頃まで刑務所に入っていたけどその間あの連中が面会に行ったとは思えないわ。教祖の神通力も金が切れたら終わり。金の切れ目が縁の切れ目よ。一旦警察にでも捕まったりなんかしようものなら連中は一瞬で霧の様に消えてしまって影も形もない。でも刑務所から出てきて半端仕事で小遣いでもやるとまた群がって来る。腐肉を投げられたら集まってくるハイエナと一緒でね」

と続けた。

「あのクラブに繰り出す時に一緒に行っているあの連中もそうなの?」

「あの連中こそ金にたかる銀バエよ。あんたはああいう一見毒にも薬にもならない連中こそ一番意地汚いことを知らないの? 只食い、只飲みがこの世で一番好きと来ている。実際賄賂を貰ったり、汚職で捕まったりしている小役人や会社のどうせ重役や社長にはなれそうにない課長や部長クラス、年で言うなら三十代後半から四十代、そんなのは星の数ほどいる。ネクタイを締めた銀バエの方が猿軍団より遥かにたちが悪いわ」

そういう連中に詳しいみたいねと真世が言うと麻衣は肩をすくめてあの男が彼女を飲みに連れ歩かないのは大助かりで、さもないと昔の客に正体を暴かれかねない、東京は広そうで実際は狭いと言った。

「それで金のありかは分かったの?」

「一部は外国の銀行口座に隠しているみたい――それがどこなのかは未だ分からない」

と彼女は首を振った。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『マグリットの馬』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。