このピアノソナタ第3番は3楽章からなり、演奏時間は15分ほどである。第1楽章アレグロ。弾むような音楽で始まる。次いで、軽快で律動的な旋律が奏でられる。その後冒頭部に戻る。弾むような、明るい旋律が人生に希望や憧れを感じさせてくれる。その後、軽快な律動的な音楽に戻って終了する。

第2楽章アンダンテ・アモローソ。ゆったりとした音楽で始まり、しばらくして第一主題が現れる。この第一主題は、ゆったりとして穏やかで、聴く人の心を落ち着かせてくれる。その後に現れる第二主題も静かな落ち着いた音楽である。アモローソ(愛情豊かに)の指示通り暖かな、慈愛に満ちた音楽である。

第3楽章ロンド、アレグロ。明るく弾むようなロンド楽章。楽しい曲で、快活である。聴く人の耳に優しく響いてくる旋律が素晴らしい。私の愛聴盤はヘブラーの録音である(CD:フィリップス、SHM-1006 、1968年ザルツブルクで録音)。この曲ほどヘブラーの演奏の素晴らしさを感じさせてくれるものはない。40年以上も繰り返し聴いているが、聴くたびに新たな感動を覚える。控えめであるが、真珠のような輝きがある。

10章 ピアノ四重奏曲第1K. 478

モーツァルトが残してくれた二曲のピアノ四重奏曲は、「フィガロの結婚K. 492」を挟んで作曲された。このK. 478 は1785年10月にウィーンで完成された。モーツァルトは29歳になっていた。3楽章からなり、演奏時間は全体で25分程である。この時期モーツァルトはウィーンで最も幸福な時であった。そのためか深い精神性と複雑な音楽構成が見られ、弦楽四重奏曲や弦楽五重奏曲に見られるような力強さ、重厚さが目立っている。

また、当時ウィーンのピアノ四重奏曲はピアノ、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロの編成が一般的であったが、モーツァルトの二曲のピアノ四重奏曲では第2ヴァイオリンの代わりにヴィオラが入っている。晩年、地味で縁の下の力持ちのヴィオラの音をこよなく愛したモーツァルトらしい組み合わせである。中間弦のヴィオラを加えることによって、音楽の幅が一層増してピアノ四重奏曲という小宇宙が交響曲やピアノ協奏曲のような大宇宙に感じられる。