カフェに入るとチリンチリンと鈴の鳴る音が店内に響き、一人の女性がこちらを向いた。そして微笑みながら小さく会釈をしてくれる。その女性はとっても綺麗な人なのである。少し長い髪を後ろで一本に束ねているため、スッと綺麗な輪郭を道行く人々に見せる形となっている。

彼女の美しさはすべて、その輪郭にあると言っても過言ではない。その美しい輪郭を隠すことなく生活し世の男性を唸らせるのだから、彼女のサービス精神は甚大であると考えられた。

風太はその女性に微笑まれたのだ。悩殺されたのも無理はない。しかし何を隠そうこの女性こそが彼の目的の人物であり、これから打ち合わせをする作家なのだ。

相手はすでに席についており、コーヒーを片手に新聞を読んでいた。テーブルの上にはたくさんのシュガースティックの空袋が置かれている。彼女は以前から苦いものが苦手だ。そのくせ何かとコーヒーを飲みたがるから不思議な人だ。

「どうも、南雲さん」

風太がそう言って彼女の向かいの席に座った。

「風太君、お疲れ様」

南雲さんは気をつかう風もなくそう言った。二人の間に一般の編集者と作家のような雰囲気はまるでない。彼女はお辞儀もしないし、新聞も閉じない。しかしそれで当然なのだ。何しろ風太と南雲さんは同じ大学の出身で、同い年で、同じサークルに入っていたのだから、気をつかうのは逆にオカシイというやつだ。

「また赤い服を着ているね」

と風太は彼女の服装を見て言った。

「うん」

と肯いて彼女は笑う。

彼女は常軌を逸しているのではないかと疑われるほど赤色が好きであった。しかしその理由は未だ判明しない。

風太が来てからも南雲さんはまるで小説を読むかのように新聞をじっくり読む。風太は彼女が新聞を読む間にサンドイッチとコーヒーを注文してお腹を満たすことにした。別に打ち合わせは急ぎの用事ではないのだ。ゆっくりで良いし、風太もひと息つきたかった。

南雲さんと共有する時間も増えるしラッキー! と風太が考えているかはわからない。

しかし今時これほど新聞にのめり込むレディもいないであろう。南雲さんは新聞をひとしきり読むと嬉しそうに笑うのであった。その表情を見るたび風太は、やはり南雲さんは変な人だなあと思う。でも好きだけど、とも思う。風太は意外と恥ずかし気のない人であったりする。流石に本人には伝えないが。

南雲さんが何の記事を読んでいるかというと、それはほぼ百パーセント世間を騒がすあの男についての記事であった。

「またナイト・ナイト?」

風太がそう聞くと彼女は間髪入れずに「そう!」と言った。

「昨日は二五〇枚も盗んだって」

南雲さんはさぞ愉快そうに、風太に事件の詳細を語った。

「俺も知っているよ。だって昨日その事件後の現場に行ったもの」

そう言おうとして風太はとっさに手で口をふさいだ。恥ずかし気のない風太でも流石に、乙女の前で「桃色ディスクを探し求め夜の街を駆け抜けていた」なんて言うことはできなかったのである。

しかも相手が相手だ。恐れも多い南雲さんだ。南雲さん、彼女は普通の乙女ではない。その姿見は明らかに麗しき可憐な乙女なのだが、彼女の特異性は常人の枠に留まることはなかった。そしてその特異性は、あまりよくない方向へと突出しているのである。